第14色 魔王の旧友って、嘘でしょう? 師匠!!

「ぜっちゃん、リアベート村の修復ありがと。私の仕事少し減ったから助かるわー」

「構わんさ、私がしたかったことだからな」

「ひゅー! さっすがぜっちゃん!! わかってるー! よ、イケメン魔王! 美人初代魔女様ー!」


 煽てるようにアヴェリ師匠はゼノン様を褒め始めた。

 アヴェリ師匠とゼノンさんは知り合いなのだろうか。

 師匠も長生きしている方だって聞いてるけど……? 二人のやり取りはまるで旧知の中っていうか、友人というか、そんなやり取りだ。


「あの、二人はどういう関係で?」

「旧友だ、1000年以上も前になるな、コイツと出会ったのは」

「え!? 1000年以上も!? 師匠、そんな年寄り、」

「失礼なことを言うのはこの口かなぁ? この口なのかなぁ?」


 師匠が頬に魔法を付与して、ビミョーンと伸びる。

 ひ、ひどい。これさせられた後って大抵、食事をする時に食べ物を零しやすくなってしまうのに!! ひどいアヴェリ師匠!!


「ひ、ひらひれふ、あふぇりふぃひょう!!」

「悪い口を叱っているだけでーす。私の専門的な魔法は何かわかってるでしょー? ひどいっていうなら、人を年増扱いしたこと謝ろうかぁ?」

ふぉごめんなさぁいふぉれんらふぁい! アヴェリ師匠あふぇりひひょう!!」


 涙目になりながら謝るクリスティア。

 ある程度満足したのか、ぱっとアヴェリはクリスティアの魔法を解くのと同時に彼女の頬から手を離した。


「……今日はこれくらいで許してあげようじゃない。弟子ちゃん?」

「ふぁ!! うぅううう……っ」


 私は自分の頬を両手で触れる。

 伸びた感覚がまだ頬に残ってる。この人、怒る時は全力でやるから嫌なんだ。

 あ、でもこれだけは聞いておかないといけないよな。

 クリスティアは自分の頬に手を当てながら、アヴェリスティーヌを見る。


「あ、あの師匠。アノス君は、魔法学校に通わせるんですか?」

「もちろん、ぜっちゃんはアノス君の防衛本能で魂の奥に刻まれた術式に宿っているだけだしね」

「術式? ……でも、転生者はそのような付与を与えられるのは、異世界の人物だけだと教わりましたよ?」

「あっはっはっは、それはそう」

「……アヴェリ」

「ごめんって! 異界の知識を弟子と共有したかったのー! 悪気はありませーん!」


 ゼノン様はこの世の顔ではない怖い顔をしているのに、けらけらと師匠は彼をおちょくる。


「勝手なことをするな、私が予知でお前が現れることを知っていたから問題なかったという物を……」

「あっはっはー? てへー」

「てへーではないわ馬鹿者」

「ごめんなさーい、あー! ひっさしぶりぃ、ゼノンのアイアンクロー」


 痛がるそぶりを見せず、頭を鷲掴みにされてるアヴェリ師匠。

 おそらく、緑彩色ウィリディスカラーを使って手と彼女の頭のほんの少しの隙間の距離を開けているのだろう。

 ……卑怯な人だ。しっかり怒られればいいのにと常日頃から感じている。

 だがしかし、彼女には基本ダメージになることはほとんどない。

 多元世界も並行世界も渡れる彼女には、他人からの致命傷レベルの傷さえ躱してしまう……認めたくないけど、それくらい凄い人なのだ。


「懲りん生娘が、よく口は回る物だな」

「あ、ひっどー! こう見えて人生経験豊富女子よー!? 異世界人にはぜっちゃんが特別な縛りを付与してるんだし、問題ないでしょー?」

「え? それってどういう、」


 縛り? 異世界人の人たちにそんなものをしてるなんて、師匠は一度も……?

 ゼノン様は顔を顰める。


「アヴェリ、話し過ぎだ」

「はいはーい、失礼しました。ぜっちゃん様ぁ」

「……一度、首を切り落としてやろうか?」

「悪かったってばー! すいやせんすー!」

「貴様という奴は、本当にりないな」

「えへへ、そう?」


 いぶかしんで眼光を鋭くさせるゼノンは、目を伏せてアヴェリの頭から手を放す。

 溜息を零すゼノンさん……初代魔女兼元魔王の人と対等に師匠が接せるなんて、想像もしてなかったな……ちょっとズルい気がする。

 私たち魔法使いの中で彼は人気者№1と評してもいいほどの偉人に等しい人物。歴女な女性陣たちからも、英雄譚の知識を知っていてゼノン様に憧れている者もウィッチ界隈でも少なくない。

 そんな存在にまるで幼馴染の距離感に近い接し方ができる師匠が怖いもの知らずと言うべきなのか。


「んじゃ、色死獣も討伐したし、村人を集めてくるよ」

「え? まさか、亜空間に突っ込んだんじゃ……」

「……てへ?」

「てへ? じゃないですよ!! 確実に村人さんが精神的に病みそうな空間に突っ込まないでくださいと何度も言ってますよね!?」


 頭にこつんと手で叩き、片目を閉じて舌を出す師匠。

 いい大人が何をしてるんですか、と全力で突っ込みたい。


「あーん、くりすぅ。怒らないでぇ」

「師匠は怒られてもしかたないことをしたんです! 怒って当たり前です!!」

「えーん、後で私の屋敷に戻ってきたら、いーっぱい異界の料理作るからー!」

「それはそれ、これはこれです! 反論は認めませんからね!」

「えぇえええー!? やだぁああ!!」


 クリスティアとアヴェリスティーヌは口論している様をフェイゼノンはくすりと、笑った。


「……いい弟子を持ったな。アヴェリスティーヌ」


 封印されていた元魔王は、旧友が楽しそうにしているのを人知れず安堵していた話はクリスティアもアヴェリスティーヌも知らないとか。

 その後、村人を亜空間からクラールハイトヴェルトへと戻す作業が始まった。

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