魔法を使って奉仕する
僕が魔法を使うことができると知った次の日、朝起きた僕はまず初めに僕の体に疲労回復の魔法を使ってみた。
「ふぅ……」
マリアさんから聞いた話によると『命』の魔法には体力回復、損傷回復、状態異常回復があり使えば使うほどその回復量は大きくなっていくらしいので日常生活の中でもよく使うようにしている。
昨日の夜にエリーに体力回復を使った感じでは全然魔力の減りみたいなものは感じなかった。
「ん…。おはよう、ユート」
「おはよう」
寝る直前に疲労回復をエリーにかけていたおかげか、寝起きが悪いエリーが今日は僕と一緒の時間に起きた。
「私にも頼む…」
言われたとおりに体全体を包むようにゆっくり疲労回復をかけていくと気持ちよさそうにしているエリーの顔が見えた。
「ご飯作ってくるね」
「「いただきます」」
朝食を食べているときに、魔法のことについて訓練所でどう扱うかを一応聞いておく。
「今日の訓練の時にエリーが以外の団員の人にも回復って使ってもいい?」
僕としては前に訓練の様子を見て、他の人たちにも魔法を使ってあげたいと思ったが女の人もいたので今までの経験から事前にエリーに話した。
「それは……やめてほしい」
エリーの感情を言い表すなら『団長としてはやってほしいが、個人的には嫌だ』といった感じだろうか。
「うん、わかった」
訓練所でいつも通りエリーの部屋の掃除をしてからついでに廊下の掃除もしているといつの間にかソフィさんが後ろに立っていた。
「うわっ!」
「こんにちは~ユートさん」
万が一があるので近くの仮眠部屋に入ってエリーや他の人から見られないようにする。
「え~私に何かするつもりですか~?」
ニヤニヤしながら僕に聞いてくるソフィさんを無視して、わざわざ僕のいるところまで来た理由を聞く。
「何もしませんって…。それで何しに来たんですか?」
「今日もしんどいな~って休憩しに来ただけですよ?」
表情はそのままソフィさんは部屋の中にある大き目のベッドに座ることもなく僕の目の前に立ったままそこにいた。
「座らないんですか?」
僕は基本的にエリーの部屋からあまり出てはいけないため、できるだけ早くここから離れるために仕方なくエリーの部屋に用意してあるティーカップで紅茶を注いでソフィさんに渡した。
「……違うんだけどな…」
「ありがと~ユート君」
小声で何か言った後、微妙な表情のまま紅茶を受け取った。
「はぁ、仕方ないか」
「ユート君、『魔法』使ってくれないかな?」
その一言で僕の心の中に焦りが生まれる。
この状況で『魔法』ということは多分、ソフィさんは僕の属性のことも知っているということだった。
朝のあの様子でエリーが話しているとは思えないし、昨日のどこかのタイミングで見られたということだから言い逃れはできないだろうが一旦とぼけてみてどのタイミングなのかを探ることにした。
「……何のことですか?」
「魔法ですよ!ま・ほ・う!団長と教会に行ってましたよね?」
「行きましたけど、それは…結婚式のあれで言っただけですよ」
急ごしらえだが悪くない言い訳をすることができた。
「えぇ~でも教会の中から紫の光が漏れてましたよ?」
そんなはずはない。一応、昨日は外から見られないように三人で水晶を囲むようにしていたので教会の外からなど見られるはずがない。
これでソフィさんが僕またはエリーのことを監視しているのがわかったので嘘を交えてもう少し詰めてみる。
「僕たち、教室の奥の部屋にいたのでわからなかったです」
僕が本当のことを言うつもりがないことを察したのかソフィさんは僕を壁に押し付けてさっきまでのぽわぽわした口調から一転して出会った日のあの雰囲気で迫ってきた。
「…とぼけるつもりですか、なるほどなるほど」
小声で何かを言っているが僕には聞こえなかった。
「まぁいいです。さっさと使ってもらえます?」
「……。わかり、ました」
部屋にある一番大きなソファーに訓練用の防具を脱いだ状態で寝ころんでもらい、体力回復を発動した状態で疲労していてそうな箇所に触れていく。
エリーには及ばないけどソフィさんの綺麗な青い髪とスタイルのいい体に僕は一瞬ドキッとした。
「……ん。……あぁ」
廊下に誰もいないことを祈りながら回復を施していく。
「……んん。足の付け根の方もやってもらえます~?」
ベッドの上で仰向けになったソフィさんが開脚の体制になって僕にそこに魔法をかけるように言ってくる。
「さすがに、それは……」
「ふふ、仕方ないですね~今日は許してあげます」
「……」
ソフィさんに回復を施していたのは自分でも驚いたがたった一時間程度だった。
お昼ご飯の時間になったので元居た部屋に戻って二人が来るのを待っているとエリーとソフィさんがご飯を持ってきてくれた。
「待たせたな、ユート」
「全然大丈夫だよ」
ソフィさんの方をちらっと見るとその視線に気が付いたのかエリーが目の前にいるのに僕に向かって軽くウィンクをしてきた。
「…!」
「……どうかしたか?ユート」
「なんでもないよ!」
「それじゃあ、食べるか」
エリーがそう言うと、ソフィさんは静かに出ていった。
「「いただきます」」
「そういえば、回復魔法の効果ってわかる?」
ソフィさんのことがあって、そのことに対する意識をそらすためにエリーにそのことを聞いてみた。
「ああ、今日は体の調子がはっきりわかるくらいにはいい」
「そうなんだ…!」
「そうだ、あとで横の仮眠室で頼めるか?」
「あ、うん全然大丈夫だよ……」
「……」
「……んん。あぁ……」
さっきソフィさんにしたのと同じようにエリーの体に触れていく。
頭の中にさっきの光景がフラッシュバックしてしまう。
「いい感じ?」
「あぁ」
「そっか……」
魔法をかけているときも終わった後も僕の中にはエリーに対する罪悪感が残り続けた。
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