命の価値

 



 事前に聞いていた話では適性のある人が手をかざしたら、きれいに星が光るらしいので他の人がどうかはわからないけど魔法が使えるには違いがなさそうなので僕は無邪気に喜んだ。


「これって僕は魔法を使えるってことだよね!」


「……ああ、そうだ」


 童顔に加えて低身長が相まって成人してないと思われがちな僕だが今は子供っぽいと言われても全然仕方がないくらいにはしゃいでいた。


「エリー、それで僕の属性って何だったの?」


 エリーは『水』、他には『火』と『土』、『風』に加えて『命』《いのち》があるらしいどれがどの色なのかは聞かなかったから『紫』の属性が何なのかわからなかった。


「紫は『命』の属性だ」


「…そっか」


 僕としては火の玉とかエリーが使っていた水とかを使ってみたかったので少し残念だった。


「『命』の魔法ってどんなの?」


「それは……」


「私から説明するわ~」


 エリーが話そうとしているところを遮ってマリアさんが僕に話しかけてきた。


「…その方がいいか、頼むマリア」


 いつもならここで張り合ってくるエリーがやけにすんなりと受け入れたことは気になるが素直に聞くことにした。


「は~い!ユート君の持ってる『命』の魔力ってちょっと変わっててね~五つの中で唯一攻撃じゃなくて、回復が得意な魔力なの」


「回復?」


「例えばだけど、体力を回復させて元気にしたり~体を回復させて傷を治したりかな。もちろんエリーの体を癒したりもできるよ~」


「ちなみに私もこの魔力だよ~」


 話を聞いている感じではやっぱり僕がやってみたかった魔法っぽいことはできなさそうだったがエリーのことをサポートできるようになるならそれだけでも魔力検査をした甲斐があったと思う。


「でね~ここからが大事なんだけど、この魔力って珍しいの」


「珍しい?」


 何やら特別な言い回しをしてくるマリアさんに聞き返すと、いつの間にか隣で僕の手を握っていたエリーが代わりに答えた。


「少なくとも私の団の中にはいないな」


 うろ覚えだけどエリーのところにいる五十人くらいが皆、魔法使いなら確率は低いと言えそうな気がする。


「需要はある、だが供給は少ない。だからこの国でその魔力を持つやつは『保護』される」


 含みのある言い方に僕はこの『保護』の意味するところが分かってしまった。


「なら、もしかして、僕は連れて、か、れる?」


 本当にそうなら、言い方からして一生会うことができない可能性だってある。

 そう考えるとソフィさんに脅されたときと同じく嫌な汗が背に流れた。


「いや、おそらくは問題ない。今のユートには人の法は関係ない、そして例えそうであっても私はお前を離さない」


「……」

 

 エリーが僕の体をギュッと強く抱きしめてくれる。筋肉質だけど柔らかくて滑らかな肌が僕に安心を与えてくれた。


「…それで、どうするの~?」


 声に少し、怒りの感情が含まれた声でエリーにマリアさんが質問した。


「元々ここに来たのはユートの価値を上げて、もし連れさらわれたときに殺されないようにするためだからな」


「少し面倒が起こるかもしれないが何も問題はない」


「なるほど~。エリーにしては考えてるわね~」


「余計だ」


 あの日から今日までエリーが積極的に僕を自分以外の女性と話させることはなかったのにマリアさんとの関わりをエリーが許してく照れたのがすべて僕のためということを聞いてさっきまでに不思議に思ったことの謎が解けた。


「ありがとう、エリー。僕のことを大切に思ってくれて」


 僕の言葉を聞いて、エリーは無言でこっちに近づいてきて一層強く僕のことを抱きしめてくる。


「私も相手、欲しいな………」


 後ろでマリアさんが僕の方をちらちら見ながら小さくつぶやいた声は聞こえないふりをした。

 そろそろ、握りしめられた体が悲鳴を上げ始めているが『離して』の一言は言えなかった。


 





「今日は助かった、マリア」


「全然大丈夫よ~また来てね、ユート君」


「ありがとうございました、マリアさん」


 あの後、マリアさんに『命』の魔法に関することをある程度教えてもらうと僕はすぐ大体の魔法は使えるようになった。

 マリアさん曰く『すごい』とのことらしいが褒められて僕が喜ぶたびに少しずつエリーの機嫌が悪くなっていったので途中からは控えめにして、練習にいそしんだ。


「これからは、訓練が終わった後のエリーとかに魔法をかけて練習していけばだんだん良くなるわよ~」


「はい、わかりました」


 そして、僕らはマリアさんの教会を後にした。






 馬車を降りて、家の中に入るとすぐにエリーに体を押し倒された。


「ユート、今日は楽しかったか?」


「……」


 今までの経験が僕の体に警鐘を鳴らした。

 『答え方を間違えるな』と。


「何も、言わないのか?」


「エリーとのデートが楽しくないわけないよ」


 心臓の鼓動が早くなりエリーが声を発するまでの時間がとても長く感じた。


「…そうか」


 床に拘束されていた僕の腕からエリーの腕が離れる。


「ユート、またデートしような」


「うん!」



「でも、今日みたいに他の女に目移りしたりしたら……だめだからな」


 暗い瞳の中には光はなく、僕の姿が小さく映っていた。




 



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