救世の英雄と英雄嫌いの魔導士
ボウガ
プロローグ
「どうして、そんなに過去を恐れる!!」
「あんたなんかにはわからないだろう、自分が英雄だった過去にすがるものなんかに!!」
ある街で、その老人と若者の口論を聞いたものは、彼らの功績に似つかわしくない、その小さな葛藤と、彼らの言葉への嫌悪感をもったことだろう。
「英雄なんて大嫌いだ!!」
「私もだ……若者よ」
この世界の陸地の大部分を占める中央のユーゲルベス大陸の中央、そこでかつて旧時代の遺跡を支配し大陸を恐怖で支配していた魔の者とその王”魔王クリューゲル”。彼と彼率いる魔物の魔王軍は大戦で倒れた。
その世界戦争の名を”英雄終末大戦”という。
50年前に集結した戦争で、魔の者の王を滅ぼした終の勇者とその軍隊の勝利を経てユーゲルベス大陸は平和と安寧を取り戻し、人々の為の世界が訪れた。旧時代の遺跡には新連合王国〝ゲミド〟が建国され、人々は英雄の伝承や伝説によって一つのまとまりを得た。
それまで魔王や魔物たちを恐れ、噂や伝説ばかりを話していた人々は、近頃その記憶も薄れ今度はその英雄たちを称える話ばかりをするようになった。
荒涼とした大地を一人の老人が行く。白い眉に白い髪にマントを羽織り、深いクマに優しげな下がり気味の目じり、体のあちこちに機械的な装飾を施された、しかしどこかクラッシックな趣の警備な鎧をつけている。息切れしながらやがて砂埃の中にある村をみかけると
「ふむ」
とつぶやく。すぐに村の入り口までくると、村の中の人々の影をみて安心したのかそのままそこでバタン、と倒れこんでしまった。
その一方、その後方6キロほど後ろで、奇妙な杖を持つ一人の若者が生き倒れのような老婆を介抱していた。
「ありがとうねえ」
青年が尋ねても老婆はその理由は言わなかったが、見るからに貧乏そうに見える服装を見るに何かしらの理由があるのだろう。老婆は"ルルの街"を目指すといっていた。若者は街へはいけないといったが、老婆は水を渡されて
「これで十分さ」
といった。若者が荷物から干し肉などをふるまい二人で簡単な昼食を食べた後、老婆が若者にいった。
「その杖、そんなに粗雑に扱って、毛嫌いしているのならかしてくれませんか?必ず、お礼をしますので」
たしかに若者は、杖をけ飛ばしたり、尻にひいたり粗雑な扱いが目立つ。だが彼は予想に反して困った顏をしていった。
「確かに俺はこれを嫌っているが大事なものなんだ、俺じゃなくて、俺の大事な人たちの」
老婆は、申し訳なさそうにうつむいた。若者はその後、杖の代わりだといって簡単な魔術をかけてやった。老婆は足が軽くなったといって、元気に街に向かった。
若者は顔を上げる。鼻筋を中心に斜めに入った十字傷。鋭い瞳固く結ばれた口に人形のように綺麗な輝きをもった瞳。力強い眉。右手が義手でぶらりと垂れ下がっている事を覗けば、勇敢な若き旅人そのものの姿がそこにあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます