望まぬ再開

奏とお互いに話を共有してから数日たったある日、僕は少し散歩をしようと思って自転車で丘の上の公園まで行く事にした。

 最近は少しずつだがギターを見ても怖くは無くなってきていて、後少しで完全に克服もできるだろうというところまできた。


 「この前は奏のところに行っちゃってここには来られなかったからな……少しゆっくり散策でもしようかな。」

 幼稚園の頃に奏と一緒によく遊んだ公園。そんなこの公園は今も昔と全く変わらずにここに残っている。


 ある程度散策し終わり、ベンチで休んでいると数人の高校生らしきグループが公園に入ってくる。

 そのグループにいる一人の少年を見て、僕は寒気がした。

 「げっ、山田じゃん……。」


 僕と奏がここ、広島から東京の方へと引っ越した直接の原因でもあるのが山田だ。

 僕達が小学校の頃、奏と僕との家は近く、いつも一緒に登校していて、そんな時に僕をいじめてきたのが山田だった。

 山田は当時、奏のことが好きだったらしく僕がいつも奏と一緒に登校していたりしたのが気に食わなかったようで僕に対してよくいじめをしてきていたのだ。


 幸いにも奏には被害を与えさせることは無かったが、僕は先生に相談をしてもやめない山田のいじめにうんざりして父親の転勤を機に東京への転校を決心した。

 奏はその際に僕と離れたくないという理由で東京にある親戚の家から登校するという条件で僕と一緒の学校に転校し、そのまま二人で音楽を始めた。


 「せっかくここでゆっくりしようと思ったのに……。バレないようにこっちから回り道するか。」

 円形上になっているこの公園の構造上、山田が来ている道とは反対の道を通れば遭遇せずにこの公園から出られると思った僕は少ししゃがみながらゆっくりと出口へと向かう。


 もう少しで出口に着くという時に、僕は後ろから誰かに突かれた感触がして振り向いてみると案の定、彼がいた。

 「おい、吉人じゃねぇかよ。久しぶりじゃねぇか。ん?」

 「山田か。久しぶりだな。」

 僕はあえて少し強めの口調で返事をして、山田をびびらせようとする。


 「お前いつからそんな偉そうになったんだよ?でも、それもガワだけだな!見た目はただの引きこもりの不登校野郎じゃねーかよ!」

 山田は相変わらず僕を舐めたような態度であしらってくる。

 「見た目が悪いから何だよ、僕はただ生きたいように生きてるだけだ。お前みたいな奴に左右されるような人生は送りたくないね。」


 正直口論で勝てる可能性は薄いが、少しでも威嚇をするために僕は普段は使わないような強い口調を続ける。

 山田は何だと?と言って拳を構える。完全に僕に対して殴ろうとしている体制だ。

 僕が拳をブロックしようと腕を出したその直後に急に山田は動きを止めた。


 「はぁ、やっぱり山田は昔から変わってないね。」

 山田が動きを止めたのは、後ろにいた奏を見たからだったようだ。

 「奏、何でここに?バンド練習はどうしたんだよ。」

 「いや、吉人のお母さんが村役場まで来て吉人のことを探しててさ。ここにいるんじゃないかなっていう私の勘で来たら、こんな状況だったって訳。」


 そういえば家を出る時に母親にも秀影おじさんにも何も言わずに出てきてしまったことを思い出した。

 母親には怒られるかもしれないが後で謝っておこう。

 「んで、山田はまだ吉人のことをいじめてるって訳ね。」


 奏は呆れたような顔で僕に確認をする。

 「いや、違う!た、たまたま久々に吉人に会ったから挨拶でもって思っただけで……。」

 「へぇ?じゃあ、山田は挨拶する時に人を殴ろうとするんだ。」

 奏は追い討ちをかけるように山田に話している。


 「何だよお前!昔から家が近いからって吉人とばっか仲良くしやがって!俺には全く目も向けてくれなかったくせに、大口叩きやがってよ!」

 怒りが抑えられなくなったのか山田は奏に対して怒鳴りつける。


 「そういうところ。」

 「はぁ?」

 「そうやってすぐ怒って手を出したり、大声出したりするのが昔から嫌だった。それだけだよ。」

 奏は冷静に、そして鋭い目つきで山田を睨みつけ、言葉を続ける。


 「それに比べて吉人はいつでも優しく私に接してくれたし、暴力を振るおうとしたりもしなかった。だから私は吉人について行って東京に行った。」

 山田は何かくるものがあったのかその場で立ったまま動かなくなっていたがそのままきびすを返して「ちっ、ラブラブ野郎どもめ。」と言って去っていった。


 「奏、みっともないところ見せちゃったな。助けてくれてありがとう。」

 奏はいいんだよ、私も山田に一言ガツンと言ってやりたかったし。と言って笑ってくれた。


 「奏、覚えてるか?昔ここで隠れん坊とかしたの。」

 「もちろん!いつも私が勝ってたよね?」

 小さい頃は隠れるのが苦手ですぐに奏に見つかっていた記憶が確かにある。

 「今なら負けないぞ?」


 「本当に?じゃあ私が10秒数えるからその間に隠れてよ!」

 奏は近くの木のみきに顔を当ててじゅーう!と言って数え始めた。

 「おいおいマジかよ!」

 僕は急いで近くの茂みに隠れた。


 その後すぐに奏は僕を見つけてニコニコ笑ってからこう言った。

 「やっぱり吉人はすぐ、私に捕まっちゃうね。」

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