アイドルからAV女優への転身。容姿だけがわたしに残された唯一の才能。ファンのために抱かれます。これが応援してくれた最高の恩返しだ。

楽園

第1話 崖っぷち

「わたし、AV女優で再デビューします」

 ソロデビュー曲の発表会で、ファンを前にわたし―小嶋沙也加は声を搾り出した。


 マスコミ関係者には先に書類が提出されていたし、一部熱心なファンは会社名から気づいただろう。カメラのシャッター音とフラッシュがたかれ、いたるところからわたしを撮影する。


 ファンの女の子の悲鳴が聞こえた。


 ごめんね。


「AV女優になろうと決めたきっかけは何ですか」

「知らない人に抱かれることになりますけど、後悔はありませんか?」

「フラワーズのリーダーだったと思いますが、元メンバーにデビューのことを話しましたか?」


 矢継ぎ早に質問が飛び交う。マネージャーの小林悠一がわたしの前に立った。


「事前にお話ししたとおり今回の会見は質問を受け付けておりません。先にお渡しした書類に必要事項と御社名をお書きいただき質問事項を提出していただくようにお願いいたします」


「今後も応援よろしくお願いしますね」


 わたしは笑顔で会見を終了した。


「なんかファンを裏切ったような気分だよね」


 発表会から帰る車の中で、車を運転するマネージャーの悠一の方をじっと見た。


「発表会の動画バズってるらしいですよ」


「見たくない」


「どうしてですか?」


「叩かれるの分かってるよ。あのフラワーズのセンターだよ。わたし……」


「後悔……してますか?」


「後悔はしてない……とは思う」


「じゃあ前向きに考えましようよ。応援してくれてるファンに申し訳ないですよ」


「はあい、明日から本気出すから」


「期待してますよ」


 そう。明日からわたしの撮影スケジュールは分刻みにギッチリと組まれていた。パケット写真や雑誌やインターネット用写真の撮影、そして本番の撮影だ。みんなを裏切りたくなかったので、撮影は発表後にしようと決めていた。


 AV撮影と言っても納期が組まれており、契約書などは事前に説明を交えてきっちりとされた。AV新法のせいで撮影ごとに契約書が無ければ許されないのだそうだ。


 アイドル活動の時の方がいい加減だったなあ、とは思う。水着撮影なんか当日まで知らされないことも珍しくなかった。


 どう言う風な内容かも事前にきっちりと説明されるし、ダメなプレイがあれば先に記載しておけばその仕事は来ないそうだ。


 何もチェックせずに提出しようとしたら悠一からダメですよ、安売りしちゃあ、と怒られた。


 アイドルがAV女優になる場合は、激しいプレイにはチェックをつけておくそうだ。


 乱交、痴漢ものなど数箇所にチェックをつけて提出した。


「そうだ。一度事務所に寄ってもらえませんか。きっとマスコミからの質問状が届いていると思いますので」


「あれ、わたしが回答するの?」


「当たり前じゃないですか? 誰が回答するんです?」


 悠一は白塗りのBMWを駐車場に停めるとわたしの前に立って事務所を開けた。事務所と言っても悠一が社長兼マネージャーの会社だ。所属タレントはわたししかいない。


 悠一は中肉中背でメガネをしていて真面目で優しそう見えるが別に男前でもない。


 コーヒーを入れてくれると言うので、わたしは鏡を見ながらメイクの確認をしていた。肩までの髪の毛に切れ長の大きな瞳。西洋人形を思わせるような丸い童顔の顔立ちは子供の頃から必ず可愛いと言われた。街でアイドルにならないかと事務所から声をかけられアイドルデビューをしたのは十年前のことだった。


「はい、どうぞ。物思いに耽ってたように見えましたけども……」


「いや、まあ。わたしで勤まるのかな?」


「今になって及び腰になってますか? 嫌なら辞めたっていいんですよ」


「そんなわけにいかないでしょう! あれだけ多くの人の前で言っちゃったんだから」


「まあ、でもそのくらい覚悟がないとやっちゃダメだと思ってますからね」


 わたしはコーヒーを飲みながら質問状の束をチラッと見た。


「嘘? そんなにたくさんあるの?」


「元人気アイドル。フラワーズのセンターだよ。そりゃ騒がれるよ」


「ソロになってから泣かず飛ばすだったけどね」


「自虐ネタはいいから。そう言って沈むのは良くないことだよ。前向きに考えようよ」


「はいはい。そうでしたよね」


 わたしは、コーヒーを置いて1枚目の質問状に目を通した。


 昔からたくさんの人と激しい交友をされてたと聞きますが、本当ですか?


「あっ、それから読んじゃいましたか」


 わたしが思い切り不満そうに質問状を睨みつけてるのを見た悠一は溜息混じりにそう言った。


「これ、答えなくちゃいけないの?」


「本当のこと言えばいいんじゃないですか?」


「AVデビューしてるアイドルが誰ともエッチしたことないなんて誰が信じると言うのよ」


「でも、初作品はそう言う売り出し方だったと思いますよ」


「嘘ばかりの業界だからね。誰も信じないよ」


 わたしは他の質問状も読んでいったがろくな事が書かれていなかった。


 結局、わたしはこれから半日かけて望みもしないことを書かされる羽目になったのだ。


「そうだ。最近、元メンバーには会いましたか?」


「妊娠したやつを許せるわけがないじゃないじゃん。AV堕ちしますなんて言ったら、それこそとんだ笑い物だよ」


「でも、前川未来まえかわみくちゃんは、きっと心配してくれてると思いますよ」


「だろうね。でもわたしからは連絡しずらいよ」


 話していると携帯が鳴った。着信音で分かった。わたしの携帯の音はフラワーズのメンバーだけは音を変えていたのだ。


 着信相手には前川未来と表示されていた。わたしが今一番話したくない相手だった。



ラブコメ!?


どちらかといえばガールズラブが強いかも。


始まりました。

よろしくお願いします。


前に似たような話書いたけど、今回は逃げません。

業界を書くよ!!

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