自称剣豪と魔法使いのお兄さん
姫之尊
第1話
どうしてこうなった。
剣豪を目指す普通の中学生だった俺は、何故か異世界に迷い込み、2人の盗賊と対峙している。
錆び付いた剣を腰に差し、視線を2人からそらさないように注意しているが、早く逃げ出したくてたまらない。
「てめえ、ひょろひょろで弱そうだな」
「兄貴、こんな奴とっとと殺して奪っちまいましょうぜ」
絵に書いたような悪に睨まれ、体が縮こまる。
スキンヘッドで斧を手にした悪党なんてテレビや漫画でしか見たことないが、どうやらこの古臭く趣のある、馴染みない世界では当たり前のように存在しているらしい。
「
鮮やかな青髪の義姉が、肩にかかった髪を揺らしながら遠くから声援を送る。
声援と言っていいのだろうか、感情がこもってないし、恐らく俺が負けると思っている。
日本にあんな髪色の1が居たら、絶対に近づくことは無いだろう。
何故かこの世界の人というのは髪が鮮やかで、カラフルなのだ。
染めている訳では無いはずだ。恐らくこの世界にそんな染料はまだない。
一先ず意識を目の前のゴロツキに戻し、虚勢を張る。
「逃げるなら今のうちだぞ。手加減なんて出来ないからな」
「何言ってるんだてめぇ。ぶっ殺してやるよ」
鳴呼駄目だ。虚勢を張ったせいでゴロツキを逆上させてしまった。
「ほら一刀、お兄ちゃんがついてますよ! 頑張って」
俺の義兄、本人は実の弟だと俺を思っている魔法使いが、呑気に離れたところから声援と肉体強化の魔法を送ってくる。
「母さん、先立つ不幸をお許しください」
空を見上げ母に祈った。もう会う無いかもしれない。
この世界に来て盗賊達と何故か戦うことになった時までの記憶が、最悪のタイミングで脳裏を流れ始めた。
────
腕立て10回、腹筋背筋20回、スクワット30回、ランニング10分、そして木刀を使った素振り500回。これが俺の日常だった。
中学3年になってから、受験勉強に追われ、素振り以外はすべて中止していたが、それでもほぼ毎日、テスト前や熱を出した時、旅行中や雨の日、そして録画した時代劇を一気見してる時以外は続けていた。
小さい頃、祖父と見た時代劇を見て、俺は剣豪というものに憧れた。
映像の中の剣士が鮮やかに人を斬る姿に見蕩れ、夢中になった。
それを喜んだ祖父はすぐに俺を近所の剣道場に連れていったが、使い古された防具の匂いに吐き出してしまい、一日で出入り禁止になってしまった。
どうしてもあの匂いが体質に合わず、剣道を習うことは諦めたが、剣豪の夢を諦めることは出来なかった。
5歳の時、家族旅行で京都に行った時お土産で買ってもらった木刀をそれ以降愛用し続けている。
「お前、進路はどうするんだ」
「剣豪になるにはどうしたらいいですかね」
進路相談で担任にそう言うと、親を呼ばれこっぴどく説得された記憶は新しい。
結局は、将来大学で剣道の歴史について学びたいということで、志望校は近所の公立に落ち着いた。
受験に集中させるため、親は木刀を一時取り上げることを考えたが、14歳という年齢を考えずに数時間泣き続けた結果、阻止することが出来た。
いつも通り素振りを終え、コンビニへアイスを買いに行った。
それを縁側で食べ終えると、まぶたが重くなり、自然に体から力が抜けていた。
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