寧々とSaya(1)
「桜、もうほとんど緑になっちゃったねー
寧々ちゃんは、今年お花見とかした?」
「しないよ、毛虫怖いし。
入学式の時なんて、頭上に怯えながら家族で写真撮ったんだから。」
「あははははっ!!
そういえば、春になったら、寧々ちゃんのお家のカフェも再開するんだよね。」
「もう始まってるから、また今年も来てよ!
また新作の感想も聞きたいから!」
高校に進学して、はや一年が過ぎた。去年は1階だったクラスも、今年2階。窓の外から見える景色が、去年よりも広く感じる。
この中乃(なかの)高校に入学して、2年目の春を迎えた。
私の名前は 葉海 寧々(はうみ ねね)
どこにでもいる、至って普通の女子高生。
___まぁ強いて言うなら、高校デビューをきっかけに、『女子らしさ』を意識するようになった。
髪を頑張って長くして、ストラップや文房具は、友達とお揃いで統一する。
これが女子らしさとは・・・あんまり思えないけど、まぁ『女子特有の団結力』という事で。
『女子力』を分かっていない時点で、女子としては失格なのかもしれないけど。
「次の授業、体育だったっけ?
グラウンド? 体育館?」
「体育館。更衣室まで一緒に行くから大丈夫だよ。」
「いやいや、もう更衣室も体育館も、どこにあるのか分かるよ。
_______多分。」
「一気に不安になるね、最後の言葉。」
2年生になると、「こんなに私たちの高校ってせまかったっけ?」と感じるようになる。そして、去年までは感じなかった下級生からの『尊敬の眼差し』
おまけに、上級生からの『厳しい眼差し』に挟まれる、『中間管理職』的な立場の我々2年生。
相変わらず3年生は怖いし、1年生との距離感がなかなか難しい。でも、1年も学校で過ごせば、まぁ色々と慣れてくる。
入学当初は、こうれいの「あの教室ってどこだったっけ?」という会話も少しずつ減っていった。
ただ、逆のパターンもある。
入学当初はキラキラと輝いていた制服や体操着。
でも1年も経てばもう見慣れてしまって、今は私服や別の学校の制服がうらやましく思う。
去年まで、教室内でも緊張していた筈なのに、今ではもう、教室内で堂々とスマホをいじっている。
放課後には堂々とお菓子パーティーやゲーム大会。
やっと(これが青春・・・!!)と思えることが増えた気がする。
「そういえば、HRもうすぐなのに、先生来ないね。」
「他のクラスもまだ騒いでるよね、どうしたんだろう。」
学校の環境に慣れてくると、『教師が教室に来るタイミング』だったり、『教師が廊下を歩く足音』も、無意識に覚えてしまう。
あと、『怖い教師』と『優しい教師』の区別もつく。どの教師にどんな態度をとればいいのかも、何となく分かってきた。
___それでも、私はまだ、この高校生活に慣れないところがある。
ガタンッ!!!
「きゃっ!!!」
「あ、ごめーん! 足が引っ掛かっちゃったぁー!」
「あははははは!!!」「リカったら酷ーい!!」
_____このやりとりを、一週間に何十回も聞いている。イスの足を蹴って、座っていた幼馴染は盛大に転んでしまう。
それを何十回も繰り返せば、幼馴染のほほにアザができてしまう。イスの足を蹴られる時もあれば、カバンを蹴られる時もあって、その時はたいてい『お弁当の日』
リカさん達のいつものやりとりを、一緒になって笑うクラスメイトと、苦笑する私達で分かれる。
でも、誰もリカさん達の行為をやめさせないところは、全員が共通している。
リカさん達は、いわばこのクラスの『ボス的存在』 そんなクラスメイトの気分を曲げれば、自分も巻き添いになる。
『男よりも女の方が怖い』とはよく聞くけど、女は子供でも大人でも怖い。私自身も、幼馴染がひどい扱いをされているのに、見て見ぬフリしかできない。
歯がゆさはある、でもそれ以上に、リカさん達が怖い。同じ女子でも、リカさん達にはついていけそうにない。
私の幼馴染 冬山 優華(とおやま ゆうか)は、昔からあまり人と接するのが得意ではないほうで、大人しい性格。
でも、周りをしっかり見て行動できる、すごく頭が良くて優しい子。
そんな性格の女の子、男子にしてみれば『おちょくる対象』としてはもってこい。
「うっ・・・うぅ・・・・・」
「あはははー! こいつまた泣いたぜー!」
「誰だよ泣かせたのー」 「俺でーす!」
「ちょっと、あんた達、やめなさい!! あんた達の頭は幼稚園生レベルなの?!」
「げ!! 寧々だ!!」 「ヒィー!! 逃げろー!!」
そんなやり取りが、小学生のころは当たり前。おかげで私は男子から『要注意人物』あつかい。
けど、アイツらに比べたら、危険でもないでしょ。
「ね、ねねちゃん、ありがとう。ごめんね、いつもいつも・・・」
「気にしなくていいの! 私が好きでやってるんだから!」
優華の性格が内気なのは昔からだけど、優華は私たちが思っている以上に、昔から大人だった。男子からおちょくられても言い返さないのは、ただ単に面倒だからではない。
反論して、相手が傷つくのが嫌だから・・・という、聖人顔負けの性格。そんな幼馴染を、私は見ていられない。
優しさというのは、確かに大事なのかもしれない。でも、その優しさにつけ込もうとする人なんて、子供でも大人でもたくさんいる。
ニュースとかSNSでも、優しさを利用した詐欺とかが注意されている。人の優しさにつけ込む・・・なんて、重罪レベルの悪行。
でも、そんな詐欺に引っかかっても、優華は「仕方ないよ」と言って、許してしまいそう。
それが、優華の短所でもあり、長所でもあるんだけど・・・
昔から優華の両親にも、
「あの子をちゃんと見ていてね」とか「あの子を守ってくれてありがとう」
なんて言葉をしょっちゅう言われていた。
お礼を言われるとプレッシャーになっちゃうけど、これから先も、ずっと一緒にいたい。何度も何度もそう思っていた。
でも、今の優華は、明らかに損しかしていない。誰の目から見ても。
優華はリカさんに対して、何か嫌がらせをしたり、不都合な噂を流したこともない。なのに、リカさんは優華を毎日のようにいじめては、楽しんでいる。
本人は『単なるからかい』なんだろうけど、傍観者である私たちからすれば、『暴行』や『暴言』と変わらない。
大人なら逮捕できそうなくらいの罪でも、子供だとなかなか対処できないのが、余計に胸をムカムカさせる。
担任が、この現状を把握しているのか分からない。女子のいじめというのは、とても陰湿で、とてもずる賢い。
リカさんも、『逆らう人間が誰もいない空間』でしか、優華で遊ばない。教師の前では、普通の女子高生を『演じている』
リカさんの周りにいる女子に関しては、リカさんにつられている感じがする。女子にとっても、男子にとっても、リカさんは恐ろしい。
それをリカさんは認知しているのか、それとも、認知されている立場を利用しているのか。ただ、傍観者である私たちは、学校でずっとヒヤヒヤしている。
(_____まぁ、私は『傍観者以上にタチが悪い』けど。)
私の全身は、ずっとウズウズしている。今すぐにでも、優華とリカさんのやりとりに横ヤリを入れたくて仕方ない。
リカさんをぶん殴りたい気持ちを、必死に抑えている。
でもできない、どうしても足や口が動かない。それは、リカさんが怖いから・・・というのも一因だけど・・・・・
ガララッ
「HR始めるぞー! 席つけー!
___ん? どうした、冬山。」
タイミング悪く・・・なのか良いのか分からないけど、転ばされた優華が、散らばった教科書を集めている途中、担任が教室に入ってくる。
そして、生徒達の反応は2つに割れているのを、私は何となく感じていた。
私たち大半のクラスメイトは、優華が担任に、泣きついてでもいいから助けを求めてくれる事を祈っている。
だが優華をいじめているリカさん達に関しては、圧力のある目で彼女を睨みつけいた。その顔は、『般若のお面』すらも唖然とするレベルの恐ろしさ。
担任はリカさん達に気づいていないのか、キョトンとした顔をしている。その顔に、最近は腹立たしさすら感じるようになった私。
男子でも分かるくらい、リカさん達は優華を睨みつけている。にも関わらず、教室全体を見渡せる筈の担任が、何故気づかないのか・・・・・
「__________いいえ、何でもありません。」
優華は、必死に作り笑いを浮かべながら、机を元に戻す。その言葉を聞いたリカさん達は、ようやく顔をゆるませる。
彼女に対して、あんな顔で睨みつける・・・という事は、リカさん達にも『悪いことをしている自覚』はあるのかも。
そして先生は、優華の言葉をそのまま受け取り、HRを始める。私たちは、このやりとりを何十回と見ている。それなのに担任は、違和感すら感じていない。
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