第17話 ほぼ確信に


 経験豊富な俺は女心なんてすぐ分かるぜ?


 そんなこと言える奴が、この世にどれ程いるんだろう。けっこういるようにも思うけど、もちろん俺はそっち側じゃない。


「ねえ、せんぱ~い」

「なんだよ、お前は…」


 梅雨のジメジメしたこの季節。放課後、俺達は体育館で部活の練習中だった。

 汗もかいて、コートの隅で一休みしている俺は、後輩の西野に話しかけられていた。


 あの勉強会以降、ちょくちょくこうして彼女に絡まれることが増えていた。やたら絡んでくるのは総司のことだとは思うけど、距離が近いんだよ、お前は。


「へ~…仲良いんだ…へ~…」


 ほら!涼花が激おこじゃないか!!


「ち、違っ…涼花、違うから!」

「しののめくんはかわいいこうはいとなかよくしてればいいよ」


 ロボットみたいに棒読みで言われても怖いだけなんだけど…


「姫宮先輩も一緒に行きましょうよ」

「は?」

「姫宮先輩と東雲先輩、あと神代先輩も誘って夏祭り行きましょう」


 それを先に言えよ!!


「夏祭り?」

「はい!夏休み入って、総体が終わってすぐくらいに神社で夏祭りあるじゃないですか。それにみんなで行きましょうよ」

「…凌くん、どうする?凌くんがいいなら、私もいいけど…」

「まあ、いいんじゃない?」

「じゃあじゃあ!神代先輩も誘ってくださいね!絶対ですよ!!」


 テンションの上がった西野は、俺と涼花の手を握ってブンブンと振っている。


「なにそんなに盛り上がってるんだよ」

「あ、林」

「どうしたんだ?」

「総体終わったら夏祭り行かないか、って話になっててさ」

「お!いいな。俺も一緒に行くよ」


 西野が「ちょっと先輩、なに林先輩にバラしてるんですか」という目で俺を見ている。

 あ!今俺、女心分かった!


 …まあ、それは置いといて、こうなってしまうと、今更断るのも難しい。ごめん…


「そうだ、西野。お前瑠美ちゃんと同じクラスだったよな」

「…瑠美ちゃんって…橘さんですか?」

「そうそう」

「そうですね」

「彼女も誘ってくれよ」


 林はニコニコというよりも、ニタニタといったふうに笑っていて、男の俺から見てもちょっとどうかと思う。

 西野も「えぇ…やだな…」と言わんばかりの表情。うんうん、分かる、その気持ち。


「どうしたんだ?」

「あ!神代先輩!!」

「ああ、総体終わったらみんなで夏祭り行こう、って話になってて。お前も来ないか?」

「それで盛り上がってたのか。いいぞ、俺も行こうか」


 西野が小声で「やった!」と呟き、控えめにガッツポーズしている。よかったな。


「でもその前に練習だ。祭を楽しむためにも、まずは総体だぞ」

「そうだな。はい、練習練習」


 みんなそれぞれコートに戻って行く。その背中を見ながら、俺も駆け足で戻った。





 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「ねえ、凌くん」

「うん」

「林くんと仲良い?」

「え?普通かな」

「そう…」


 部活が終わった俺と涼花は、二人で自転車を押しながら学校を出て、なんとなくそのまま歩いていた。


「涼花は?」

「女子と男子だとあまり接点もなかったし、今まではクラスも違ったから」

「そっか。よく分からない感じ?」

「だったんだけど…」

「けど?」


 彼女は少し眉をひそめ、ちょっと嫌そうな顔をしている。


「なんとなく、その…」


 まあ、言わんとしてることは分かる。




 今日のやり取りで、俺の疑惑はほぼ確信に変わった。




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