第14話 つもりはない


「え?付き合ってなかったの?」

「あれで付き合ってなかったとか言われても…なあ?」

「うん。説得力ないよね」

「正妻感半端なかったし」

「ていうか廊下でイチャつくな」

「教室でもな」

「「「「それな」」」」



(くっ…!)


 翌日、なぜか俺達が付き合うようになったことが知れ渡っていて、こんなふうに冷やかされる羽目に。

 どうやら涼花が女子友達に話したらしく、そこから広まったみたいだけど、みんなはもうすでに付き合ってると思ってた様子。


 とりあえず、穴があったら入りたいくらい恥ずかしい。


 そんな俺の羞恥を知ってか知らずか、機嫌のいい涼花。今も俺と同じようにクラスメイトに冷やかされながらも、満更でもなさそうにニヤけている。

 本当、顔に出すぎだよ。



「やっと付き合うことにしたのか」


 また声をかけられたけど、この声は、


「ん?ああ、総司か…」

「なんだよ、その態度は」

「いや、悪い…今はちょっと…」

「ま、昔からお前らイチャイチャしてたし」

「昔からイチャイチャはしてなかったろ!」

「今は?」


 この男は口角を上げ、ニヤリと俺を揶揄うように笑う。そんな顔でもイケメンはカッコよく見えるんだな。ずるいよ。


「う…うるせーよ…。今もだよ…」

「へえ、そう?」


 こいつのニヤニヤがウザい…


「ま、いいや」


 いいのかよ…。

 ただ単に揶揄いたかっただけだろ?


 ていうか「昔から」とか言われても、小学校の頃からイチャイチャするわけないだろ。


 そんなふうにちょっと不機嫌な俺を無視して、「ところでさ」と話を切り出される。


「また期末の事とか考えなきゃなんない時期だろ?お前この前の中間、なんかやたらよかったよな?ちょっと教えてくれないか?」

「え?お前そこまで悪くなかったろ?」

「ん?あ、いや…ちょっと言い方が悪かったな。実は…西野がうるさいんだよ」

「西野?誰だよそれ」

「は?勉強教える約束してるんだろ?」


 え?そんな約束してたっけ?

 いや、うん、したな。

 それが西野…だったのか?


 俺が考え込んでいると、「やれやれ」といった感じで続ける。


「女バスの1年の後輩だよ」


 ああ、そう、あの瑠美と一緒に来た子か。

 確か涼花にびびって逃げ帰ったあの…


「そういうこと。なんかあと一人友達も一緒に、とか言ってたぞ」

「はいはい、思い出したよ」

「女子2、男子1はどうかという話なんで、人数合わせに俺も参加することになった。だからよろしくな」


 ん?

 これは…もしかして、最初から西野の総司へのアプローチの一環だったんじゃ…?

 あいつ、ついこの前まで小学校にランドセル背負って通ってたはずなのに、やるな…


 俺から西野への評価が変わる中、「伝えたからな、忘れるなよ」と去っていく総司。

 

(さて…これはどうするかな…)


 そう俺が思案していると、「神代くんと何話してたの?」と涼花が。


「え?あ、うん。勉強教えてくれって」

「そうなの?」

「前に部活の後輩…西野に勉強教えてほしいって頼まれた時あったろ?ほら、涼花が怖がらせて泣かした時な」

「泣かせてないし!」

「え?涙目で逃げてったじゃん」

「つっ……そんなこと…ないもん…」


 あ…自分でも多少は自覚してるな?


 でも、少し頬を染めて、プイっと不貞腐れたような素振りの涼花もまた可愛い。


「それで、そろそろ期末テストも近付いてきたし、あの時にいた二人と総司と俺の四人で勉強会しないか、という話だったんだ」

「ふーん」

「…え?それだけだった…よ?」

「ふーん」


 分かった、分かったから


「…えっと、涼花も一緒にい…」

「行く」

「あ、はい…」


 食い気味に被せてくる彼女に、もうこれ以上何も言えない俺だった。


 人数合わせにとか言ってたけど、大丈夫だろうか。まあなんとかなるだろ。




 後日、部活の休憩時間に西野に確認してみると、「姫宮先輩から聞いてます」と。


「あ…そうなんだ。悪い…」

「神代先輩さえいればそれでいいので!」

「ああ…やっぱそういうことか…」

「え!?いや…それは…」

「うん、分かった。まあ頑張れよ」

「あ、彼女持ちの余裕ですか?」

「ち、違うって!」

「まあそれでも構いませんよ。けど、私らの目の前で、二人でイチャイチャするのだけはやめて下さいよ?」


 西野はニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべ、俺に釘を刺してくる。



 みんなに言われるほど、そんなイチャついてるつもりはないんだけど…





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