ヴァンパイア連邦共和国
日本ヴァンパイア協会
第1話:異世界ウイルス☆アモアモ病
森の中を、2人の少年が歩いている。
1人はごく普通の9歳の少年。小森まさと、という名だ。
もう1人は赤い眼球で、紫色の髪をしている。肌は濃い茶色。
シャボリと名乗る、9歳の謎めいた少年だ。
「シャボリ!今日は特別な日だって、昨日、言ってたよね。もしかして誕生日?」
「違う。まさとを眷属にしなきゃいけない日だ」
そう言うと、紫色の髪をした少年・シャボリは、もう1人の少年・まさとの目の前で、自分の小指を噛みちぎった。
「食べろ!」
そう言って、シャボリはまさとに…自分の小指の3分の1を差し出した。
「ちょっと待ってよ。まだ心の準備が…」
「まさと!いざというときは眷属になるって約束してただろ?」
「もしかして、シャボリがいつもしてるヴァンパイアの話って、全部本当だったの!?」
「ウソだと思いながら聞いていたのか!?」
「そういうわけじゃないけど、本当かもしれないし、ウソかもしれないって思いながら聞いていたよ」
☆
小森まさと。9歳。
5歳のときに母親が自殺をし、父親は行方不明となった。
それから、いとこの家に引き取られたが、何もする気がしなくて、一日中ゲームばかりするようになった。
小学校には入学式しか行っていない。
そんななか、8歳の誕生日になる頃、急な発熱があり呼吸が苦しくなった。
次第に悪化し、救急車で運ばれた。
医者は感染症を疑って検査をしたが、すでに知られている細菌やウイルス、そのどれにも該当しなかった。
病気の原因が分からないまま、病状は悪化の一途をたどった。
☆
そんなある日、ふと目を覚ますと、紫色の髪に赤い眼球、濃い茶色の肌をした8歳ほどの少年が、自分の身体の上にのっていた。
「誰!?」
心の中で悲鳴を上げたが、すでに人工呼吸器をつけている状態だったので、声は出なかった。
「俺の名前はシャボリ。お前と同じ8歳だ!
このままでは、お前は明日には死んでいる。俺の眷属になると誓ってくれたら、特別なお薬を飲ませてやる」
すでに意識が朦朧していたので、
(よく分からないけど、この子と友だちになれたらよいな)
と思ってしまった。
そう思ったその瞬間、
シャボリと名乗る少年は、
「何も言わないという事は、イエスという事だな!!」
そう言ってまさとの人工呼吸器を外し、ポケットから小瓶を出して、なかの液体をまさとの口に注いだ。
なんとも言えない不思議な甘みがして、どういうわけか普通に呼吸ができるようになった。
まだ飲み込んでもいないのに。
「お前が罹ったのは、ヴァンパイア世界からもたらされたウイルスによる病気だ。たぶんアモアモ病だな。
とりあえず、薬を飲み込むんだな」
薬を飲み込んだ瞬間、意識もハッキリし何の症状もなくなった。
さっきまで人工呼吸器だったのに、今は普通に息をして、走り出したいほど元気だ。
☆
次の日の朝、看護士が様子見に病室に入ってきた。
「まさと君!?」
いつのまにか人工呼吸器が取れ、少年サ◯デーという漫画雑誌を、ベッドの上に座って読んでいる少年を見て、看護士が驚く。
「ああ、これは山田おばさんからのプレゼントで、元気になったら読むようにって…」
山田おばさんとは、両親がいないまさと少年にとって親代わりで、従兄弟の山田直樹の実の母だ。
「そういう事を聞いてるんじゃなくて、昨日まで人工呼吸器を付けていたのに……一体どうやって治ったの?」
昨日会ったシャボリと名乗る少年について、看護士に話しても大丈夫だろうか?
根拠はよく分からないけれど、秘密にしておいた方が良い気がした。
それに、話したところで信じてもらえず、虚言癖と思われるのも嫌だ。
「自分でも良く分かりません」
「……そう。とりあえず、川村先生を呼んでくるわ」
川村先生とは、この病院に長く勤めている医師だ。
☆
「まさと君、これは一体どういう…!?」
川村先生もまた、まさと少年の変わりようにビックリ仰天した。
その後、さまざまな検査を受けたが、どの検査でも異常が無く、健康そのものだと言われた。
「私はかれこれ30年、医師として働いてきましたが、こんな急激な回復は見たことがありません。
宗教的な奇跡など馬鹿馬鹿しいと思ってきましたが、今回のようなケースを目の当たりにして、ひょっとしたら何か摩訶不思議な力でも働いたのでは?…とまで思ったほどです。
とりあえず、現時点では健康面に何の問題もなく病気も治ったようなので、これで退院とさせていただきます。
また何か症状が出たら、いつでもご相談ください」
☆
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