【デスゲーム】Break Brain

翡翠

第1話 招待状

君たちは、最新の文明機器は好きだろうか。ちなみに僕は大好きだ。


何故かって、言われても好きに理由はないだろう。あえて言うとすれば、昔の人には体験できないことを今の自分はこの目で見てこの手で触って体験することが出来るからだ。


これは凄い優越感にならないだろうか。


想像して見てほしい、新しい次世代型のゲーム機などが出た時、迷わず買うのは当たり前だ。しかし、自分より遥かに年下の子供が同じものを使って遊んでいると、思うことがないだろうか。


もっと小さい頃からこの機種に出会いたかったとか。


ガキの分際で次世代型機種を使っていることがとても気に食わないとか。


それを逆の発想で考え手見てほしい。


もう既に生涯の旅を終えた人やはるか昔の歴史上人物からすると僕達はガキと同じだ。


彼らが体験できなかった次世代の文明機器を僕達がつかっていることに嫉妬しているに違いないはずだろ。


これほどいい優越感は無いではないか。


まあ、そんなことはどうでもいい。


とにかく、新しいものが出たら僕は何としてもそれを手に入れたくなるのだ。


数年前に発表されてから音沙汰なかったBRAKE BRAINという最新の拡張現実ゲームのベータテストがついにやってきた。


それも、直々に僕宛ての招待状でだ。


今日はその興奮を隠しきれずに学校の席で足をばたつかせてると、後ろから荻野がやってきた。


「おい、足ばたつかせて何考えてんだ?」


彼は、小学校の剣友会の時からの友達で、たまたまおなじ高校に入学した同じ部活の仲間でもある。僕の親友だ。


「ちょうど昨日ブレイクブレインっていうゲームがね、僕にベータテスターとして招待状を送ってきたんだ。」


「ブレイクブレイン?…それって随分前に拡張現実でゲームができるって話題になってそれから音沙汰なしじゃなかったっけ。」


「それがこうして招待状が来てるってことは、まだ開発チームは動いてたんだよ!」


しかし、荻野は眉をひそめていた。


「なんか怪しい気がするのは気のせいか?」


「あの大手企業の子会社であるゲームメーカーが怪しいなんていったら、この世のゲーム会社全てが怪しくなってしまうではないか。」


荻野は黙ったままだった。


「まあ、とにかく今夜感想行ってあげるから、心配するなって。」


5時間目のチャイムがなり荻野は席に戻って行った。


放課後の剣道部が終わり、ほとんどの人達が帰ったことを確認すると俺は屋上に出た。


何処にあるのかは分からないが、世界中に張り巡らされているPCB(Public Converse for Brain(公的脳神経伝達システム))に携帯端末を要求する。


すると手元には関数電卓くらいの大きさのガラス板が出現し、ガラス板からスクリーンが浮き上がる。


Nmailを開きメッセージボックスから指定のURLに飛び、昨日の追加コンテンツをダウンロードする。


ダウンロードが終わり、“ファイルを開く”をタップしてから携帯端末を手放した。端末はポリゴンに分解され消えていく。



『【警告】BrakeBrain.napkがあなたのnOSに変更を加えようとしていますがよろしいですか?』


目の前にセキュリティ許可の警告ホログラムが出ると、僕は迷わず“許可”を押しインストールが開始された。


インストールが終わりゲームを起動させるとまた警告が出てくる。


『【警告】BrakeBrain.napkのアプリケーションはnOSによっていくつかの機能がブロックされています。

ネットワークの通信を許可しますか?』


もちろん“YES”を押す。こういったシステムは古くからあるウイルス対策システムだ。この時代でも、脆弱性がないとは言いきれないから今でも続いているらしい。


ホログラムが消えると辺りの地面や壁、物が全て仄かに光だし、またホログラムが出た。


『予想行動範囲の地形を解析しています。』


僕は、拡張現実のゲームは何度かプレイしたことある。


大体のゲームは広くてもプレイヤーを中心に半径1Km程度が定期的にスキャンされる。


それ以上は複数のPCBを併用してないと、神経信号や環境情報の符号化が間に合わなくなり、サーバーに通信できなくなってしまう。


また、併用して通信ができたとしても、PCBの管理システムに負荷がかかりすぎるため、政府からサーバーを停止させられて、処理は止まるはずだ。


しかし、その仄明かりは見えているものをすべて包み、遠くまで伸び続けた。しばらくすると、6階建ての屋上にいるにもかかわらず地平線まで広がっていた。


「なんだ、これ…。」


今までにない体験ができるARMMORPGと数年前は謳っていたが、ここまで大規模なゲームだとは思っていなかった。


僕は急に胃が痛くなった。


この規模の地形解析、建物や物まで細かくスキャンされていて、PCBが壊れないはずがないのだ。


『進行状況 40%…60%…82%…88%…97%…99%』


しかし、解析は円滑に進んでいく。


『進行状況100%…完了。』


僕は思わず尻もちを着いてしまった。


荻野が怪しいと言って心配していたにもかかわらず、僕は招待状か来たことに浮かれすぎていた。


そもそも数年たってもリリース予定があるならメディアに告知してあるはずなのになぜ今まで気づかなかったのだろうか。


自分の注意力に嫌気がさした。


『【警告】神経伝達物質の異常性を確認。強制終了する場合は赤いパネルを押し続けてください。』


恐怖心が強まったのが検知され強制終了パネルが右手付近にポップアップした。


僕は直ぐにそれに手を伸ばし、押し当て続けたが、数秒経っても何も変わらなかった。


それから何度も押し当てたが、強制終了はされなかった。


『仮想環境の構築を開始します。』


冷や汗が猛烈に沸き上がる。ホログラムの操作権限がいつの間にか無くなっていたのだ。


フリーズしているならゲームもフリーズしているはずなのだが、このゲームは何事もなく起動準備を進めている。


また別のホログラムがポップアップした。


『仮想環境に必要なUltra-Vが対応していません。お使いのnOSタイプはEnterprise-S1-N76です。Enterprise-Pro-H82またはEnterprise-Dev-#�����にアップグレードしてください。アクティベートコードを入手する場合は、NarthElectricのストアページから、ライセンスを購入してから、管理局に申請してください。すでに所持している場合はそのままお待ちください。検索中…。』


僕は目を疑った。


このPCB内部で動いているオペレーティングシステム(OS)はNarthElectricという医療向け人工知能ロボットを中心に業績をあげてきた会社が開発したOS、nOSというものだ。


今ではほとんどの機器がこれをベースにOSが組み込まれ互換性がある。


そのOSにはエディションの種類があり、一般向けのHome 仕事向けのPro 企業向けのEnterprise-B-Series 教育機関向けのEnterprise-S-Seriesの4つが代表的なエディションである。


しかし、このホログラムの文面には見たことがないエディションのOSが提示されていた。


さらにUltra-Vも今まで聞いたことがない名前だ。仮想環境に関係するとしたら、Super-Vが一般的である。


しかし、PCBの先につながっているサーバー自体が仮想環境のように数えきれないほどの部屋わけがされている。そのため、仮想環境の中に仮想環境を構築するよりは、PCB管理局に開発環境の申請を提出し、新たに政府公認のPCB識別番号(ID)とアクティベートコード受けとり、別でもう一つ環境を建てたほうが快適に開発ができる。


だからSuper-Vのような仮想環境を構築するシステムを使う人なんてほぼ居ないし、そもそもnOSに標準搭載されていない。


つまりこれは、公でないOSが自分の契約しているサーバー環境にインストールされようとしているのだ。しかし、OSのアップグレードや独自の開発したOSを使いたい場合は、管理局に申請が必要だ。そのためそこまで心配はいらないのだが、僕はすごく嫌な予感がしてやまなかった。


僕は“NarthStoreを開く”の隣にある“キャンセル”を何度も押したが、当然の如く反応はない。


「や、やめてくれ、なんでタッチが効かないんだよ…。」


『nmail.narth.com/mail/mu/mp/705/#tl/priority/%5Esmartlabel_personal/1882702b3c5ba039

のメッセージ内容から、Enterprise-Dev#�����のアクティベートコードが確認されました。』


「う、嘘だろ…。メッセージ内容にどうして本人確認なしで僕のPCBID専用のアクティベートコードが貼られているんだよ。どういうことだよ!」


すべてが仕組まれているような状況に、もう何が何だか分からず、まだ表示されている強制終了パネルを何度も叩いた。


『【警告】nOSのアップグレードを開始します。』


「やめろおおお」

僕は目に涙をうかべながら音にならない震え声で叫んだ。


『【警告】nOSの更新にシャットダウンフェーズがあります。更新が完了するまでの間、ゲスト用PCBIDで簡易サーバーと同時接続させていただきます。


目の前が真っ暗に染まり、更新中とだけ表示されたホログラムがその場に残っていた。

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