出会い
あれから十年,、と恵津子はつぶやく。
大切なものを失い、一年目は耐え、二年目は忘れようと努めた。そしてやがて十年の歳月が流れ去った。
恵比寿駅はすっかり変わっていたが、アメリカ橋は思いがけずガーデンプレイスの入り口にあった。
思い出がせきを切ったように押し寄せてきた。
「この橋の名前知ってる?」と賢治が聞いた。
山手線が走る線路の上にかかった鉄の橋である。
「今見たんだけど、恵比寿南橋ってあったわ」
「正式の名前はそうなんだけど、通称アメリカ橋というんだよ」
「へえ、アメリカ橋?素敵な名前ね」
橋のちょうど中程で、緑の山の手線が目黒方面に走り抜けていく。
「アメリカで万博あった時に展示された橋を国鉄が買って、ここにかけたんだそうだ。日本の近代化都市建設の政策の一環だったそうだ」と賢治は説明してくれた。
そして、少し見上げるようにして指差した。
「僕の部屋ほら、ここから見えるあのレンガ色のマンションの七階、一番左」
歩いて五分くらいの距離かと思えるところに、賢治の部屋がある。
「母方の叔父、あの絵描きの持ち物だ。それを貸してもらってる。僕ごとき若い者が買えるもんじゃないさ」
そう言って賢治は笑った。
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