第496話 火傷

 元々衣服だっただろう焼けこげた布を、かろうじて身に纏っているメレブが、道端で倒れている。衣服だけでなく、顔や体にも焼け爛れた跡があった。

 ずっと探していた関係上、冨岡の目にはメレブしか映らなかったのだが、周囲には同じように焼かれ倒れている者が何人かいる。視野を広げて見ると、その場所全体が火で焼かれたように地面や建物も焦げていた。

 爆心地。冨岡の頭に浮かんだのは、不穏な単語だった。


「メレブ! しっかりしろ、どうしたんだ!」


 倒れているメレブに駆け寄る冨岡。だが、メレブからの反応はない。

 冨岡の背後に立っていたレボルは周囲を見渡し、膝を折って地面に指を立てる。


「炎系の魔法か・・・・・・メレブや周囲の方々は、大きな魔法に巻き込まれたようですね」


 冷静な口調だったが、レボルは指で掬い取った土を強く握った。彼なりに怒りの感情を露わにしているのだろう。

 大きな火傷を負い、意識のないメレブ。冨岡は彼の体を抱き上げ、強く揺らしてみる。

 それでも反応はない。力の抜けた体はやけに重く感じる。


「メレブ! 目を開けてくれ、メレブ!」


 大きな声で呼びかける冨岡だったが、アリリシャによって止められた。


「トミオカ様、ここは戦場ですので、大声は・・・・・・」

「けど、メレブが!」

「負傷の程度を見る限り、もうメレブ氏は」


 言いづらいことでも言わなければならない。アリリシャの顔からは、複雑な感情が読み取れる。

 だが、今の冨岡には受け入れられる言葉ではなかった。


「そうだ、回復魔法! 回復魔法をかけてください! アリリシャさん、回復魔法を!」


 焦って迫る冨岡だが、彼女に回復魔法の適性はない。苦しそうな表情で顔を伏せる。


「申し訳ありません。私は・・・・・・」

「じゃあ、レボルさん! 回復魔法を!」


 暴走気味に冨岡は顔の向きを変えた。


「応急手当て程度の回復魔法なら使えるのですが、このレベルの火傷となると」

「それでもいいから、お願いします!」


 悲痛な冨岡の懇願。

 断ることはできない、とレボルはメレブの体に手のひらを向ける。


「癒しを・・・・・・」


 おそらく魔法を発動しているのだろうが、メレブの体に変化はない。回復魔法を専門としていないレボルでは、身体中の火傷には対応できないのだ。

 そもそも、レボルとアリリシャは冨岡を気遣って言葉にはしていないが、絶命レベルの火傷を治せる回復魔法師など存在しない。


「メレブ、メレブ!」


 必死に呼びかける冨岡だが、メレブの体に反応は戻ってこない。

 そこでアリリシャは、堪えきれずに言葉を漏らした。


「聖女様でなければ、この傷は・・・・・・」


 その瞬間、冨岡の頭に『過去の体験』が呼び起こされる。


「聖女! 聖女なら、この傷を治せるんですか!?」

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