第484話 不可侵領域
あくまでも『噂』という表現に留めたノノノカだが、彼女はフォドゥン・ブック本拠地の存在をほぼ確信している。
これもまた、冨岡たちに決めつけた答えだけを与えないための説明方法だった。情報を与え、認識の決定は相手に委ねる。そのためにノノノカは話を続けた。
「少なくとも王弟派だと考えられる貴族の何人かが、不定期に一人で出歩いているという情報を得ておる。これは確実な話じゃ。ワシの『手足であり目』がそれを確認しておるからの。先ほども話したが、滅多なことがなければ貴族は一人で出歩くようなことはせん。それも、どこにでもあるような安っぽいローブを着て、顔を隠し屋敷を出ていったそうじゃ。向かった先は貧民街の近く・・・・・・残念ながらその先までは追えんかったがの」
貧民街の防衛設備は住民たちの目だ。よそ者が入ってくれば、すぐに囁かれ情報が漏れ出す。ノノノカの動かしている隠密部隊『シャドウ』は、一度明るみに出ると今後機能しなくなってしまう。追えなかったのは、その性質のせいだ。
そこで冨岡は疑問を抱く。
「王弟派の貴族らしき人物が、貧民街の方に向かったんですよね? 貧民街はよそ者の立ち入りを拒絶するから、追うことができなかった。それじゃあ、どうして王弟派は貧民街に入れるんですか? 変装しているとはいえ、いや、変装している方がよっぽど怪しいはずです」
「そんなもの、答えは一つしかなかろう。簡単な話じゃ、貧民街に仲間がおる。そういうことじゃろうな」
考えてみれば当然の話だ。誰よりも疑いの目を持っている貧民街に侵入するためには、貧民街の住民に馴染まなければならない。住民の中に王弟派の仲間がいれば、よそ者だと疑われる可能性は極めて低くなるだろう。
理解した冨岡は、頷きながら確認する。
「貧民街に仲間が・・・・・・確かに簡単な話ですが、実行するのは簡単じゃないですよね。貧民街の住民を買収するか、貧民街に自分たちの息がかかっている者を潜入させるか・・・・・・貧民街の住民を買収するってのはそう簡単じゃないはずです。確かに、あの場所に住む人たちはお金が欲しいかもしれない。けれど、貴族が自分の手足にできるほどのお金を渡せば、貧民街から抜け出せるようになる。貧民街に住まわせ続けることが難しい。それ以上に潜入も難しいでしょうけど」
冨岡の説明通り、買収も潜入も容易ではない。けれど、王弟派は想像を超えた方法で、貧民街に自分たちの仲間を置いていた。
「ふっ、元々フォビドゥン・ブックの連中は賢しくての。不可侵領域を手に入れるため、この状況を作り上げたのじゃ」
「不可侵領域? 貧民街のことですか?」
「貴族たちの目を逃れるにはちょうど良い場所じゃろ。どうして貧民街の最奥に地下教会があるのか、不思議ではないか? 奴らが意図的にそうしたんじゃよ。貧民街を作ったのはフォビドゥン・ブック・・・・・・王弟派貴族の先代、先先代というわけじゃ」
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