第482話 煙吐く蛇
王弟派の貴族たちは、そもそも自分の立場を守りたいという動機から全てを始めている。自分たちが罪に問われた場合のことを考えているのは当然だ。
全ては王弟が王座を奪うためにしていたこと。その方向に持っていくため、誰が所属していて誰が率いているのかは厳重に隠している。そういうことだ。
ノノノカの話を聞いた冨岡は、本意ではない感心を覚えてしまう。
「随分慎重ですね。王弟派の貴族たちは」
「そうすることで生き抜いてきた者たちじゃからの。ワシに貴族批判の思想はないが、今の貴族たちの多くは自らが何かを成し、爵位を得た者ではない。親から受け継ぎ、最初から貴族として生きてきた者がほとんどじゃ。つまり、何よりも『失うこと』を恐れておる。脆いもんじゃのう、与えられて生きてきた人間は」
与えられて生きてきた人間と勝ち取ってきた人間。どちらが強いのかは、語るまでもない。一度でも自分自身で勝ち得てきた者なら、全てを失ったとしてももう一度立ち上がることができるだろう。
会話をしながら自分の中で情報を整頓する冨岡。
「えっと、簡単に言えばベルソード家の情報網を持ってしても、王弟派の詳細な情報を得るのは難しい、ってことですね」
「簡単に言ったのう。悔しいが、まぁ、その通りじゃ。市井の情報やら、貴族たちの歪んだ恋愛模様やら、暇人どもの噂話やら、そんなものはいくらでも得られるんじゃがな、王弟派の情報は国家機密よりも厳重に隠されておる」
これからの行動を考える上で、詳細な情報は必須になる。特に相手の情報を得ることは絶対条件だ。
ここで話題は一服前の話に戻る。
「じゃあ」と冨岡が話し始めた。
「ノノノカさんがドロフとメレブを動かしたのは、王弟派の動きを探るためですか?」
話は貴族たちの中だけで完結しない。ノノノカはタバコを吸う前にそう言っていた。王弟派について簡単には探れない話が、貧民街に調査の手を広げたことと無関係であるはずがない。
冨岡の疑問を聞いたノノノカは、煙を吐きながら含み笑いを浮かべる。
「貴族たちの周囲から調べ何も得られんのなら、方向を変えれば良い。ちょうどヒロヤの部下たちは、貧民街でも歓迎される」
「手詰まりになった時、他の方向から行動するのは確かにいいと思うんですけど、貧民街って貴族たちから距離があるじゃないですか。一体何を調べようとしているんですか?」
「もちろん、王弟派の情報じゃ。のう、ヒロヤ。先ほどワシはニコチニアの葉、タバコについて説明したじゃろう。高級品と粗悪品の話じゃよ。こういった副作用の大きい嗜好品の良品は貴族たちに渡る。安全性が高い分、高価になるからの。反対に危険性の高い粗悪品は、貧民街に流れる。距離があるからこそ、近いこともある」
「距離があるから近い・・・・・・」
「わかりやすく話してやろう。王弟派の貴族たちは、一体どこで集まり話をすると思う?」
煙を吐くノノノカの表情は、獲物を見据える蛇のようであった。
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