第481話 保守的なクーデター

「つまりじゃ」とノノノカが話を再開させる。

 現在確認できたのは、キュルケース公爵が拘束された理由と『希望的観測を存分に含んだ解決方法』、冒険者ギルドが掴んでいた貴族たちの怪しげな動き。

 敵と断定してしまうのはある種危険だが、冨岡たちを含むキュルケース家の関係者を危険視しているのは『王弟派』で間違いない。ノノノカの話では王弟殿下自身に『積極的な野望』はないはず。

 

「王弟派の連中は王弟殿下を王座に座らせ、傀儡とするつもりじゃろうな。貴族にとって都合の現状を維持するためにの」


 王弟派の目的は、現状の維持。貴族たちの腹を痛めてでもよりよい国にしようという、キュルケース家及び現国王の失脚だ。

 対して、冨岡たちがすべきことは『キュルケース公爵と現国王の会談の場を作る』こと。

 さらにノノノカは言葉を続ける。


「王弟派としてはヒロヤたちが、キュルケース公爵の意思にで動いていると思ったんじゃろうな。孤児の受け入れだけに留まらず、屋台の美食によって街での人気も高い。その上、職人たちへも顔が効くし、貧民街にも頻繁に出入りしておる。周りから見れば、貴族を除くほとんどの人間を束ねようと動いている、と勘違いしても仕方ない」

「俺にそんなつもりは」

「もちろん、わかっておる。じゃが、真実と事実は違う。貴族たちがそう判断した、というだけじゃ」


 そう説明してからノノノカは、もう一本タバコを求めた。吸いすぎは体に悪い、と冨岡から説明した上で手渡す。満足そうに口から煙を広げ、彼女は話を続ける。当然ながらノノノカは成人済みだ。


「ヒロヤが『キュルケース公爵を救いたい』と願うのなら、相手にすべきは王弟派の連中。これだけは間違いないじゃろう。ベレゼッセス侯爵も王弟派じゃしな。そこで大切になってくるのは、王弟派を束ねている者を暴くことじゃ」

「王弟派を束ねる者ですか?」

「当たり前じゃが、現国王を失脚させようなどと考えるのは、国家反逆に近い。クーデターのようなものじゃからの。しかし、王弟派は保守的でもある。現体制を維持したい、という目的で動いておるからの。まぁ、その辺の複雑な言葉選びはどうでも良いか。ともかく、王弟派は大っぴらに名乗れる派閥ではない。誰が頭であるのかは、厳重に隠されておるんじゃ。いざとなれば、王弟殿下を生贄にし、逃れるつもりじゃろうしな」


 話を聞いた冨岡は、ノノノカの言葉を噛み砕いてみる。


「えっと、王弟派はそもそも現国王に反発する勢力だから、公にできないってことですよね。それが公になれば、国家反逆に問われるかもしれない。誰がトップにいるのかを隠しておけば、罪に問われるのは王弟殿下だけ、ってことですね」

「その通りじゃ。王弟派の連中でも、誰が所属し誰が束ねているのか、正確には知らんじゃろうしな」

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