第478話 美作の忘れ物
どうやら冨岡の推測は正しかったようで、ノノノカは少し考えてから肯定するように頷いた。
「タバコ・・・・・・確か若い者がそう呼んでおったかの。木のパイプに葉を詰めて火を着ける嗜好品じゃ。ヒロヤが知っておるとは意外じゃのう。高級な葉は貴族が独占しており、庶民に回ってくるのは大抵粗悪品じゃ。その関係上、裏ルートで出回ることが多い。ヒロヤの生活圏とは違う場所にあるものじゃろう。 キュルケース公爵にでも聞いたか?」
「いえ、俺の世界・・・・・・じゃなくて国にもタバコはあったので。あれ、アメリアさんはタバコを知っていましたよね? もしかして吸ったことが?」
アメリアはほとんど冨岡と変わらない生活を送っている。冨岡が普通に生活して知り得ないことならば、彼女からも縁遠いはずだ。ずっとこちらの世界で暮らしている、と考えれば不思議ではない話だが、どうしてもアメリアとタバコのイメージが組み合わさらなかったのである。
冨岡に尋ねられたアメリアは、湯を沸かしながら「それは」と答えた。
「少しの間、ニコチニアの農園で働いていたことがあるんです。貴族様用の農園でしたので、もちろん私たちに手の届くようなものではありませんでしたけどね。そもそもタバコを買うくらいなら、少しでも食材を買いたかったですし」
様々なところで働き、フィーネを育ててきたアメリア。その職歴の一つにタバコ農園があっても不思議ではない。なるほど、と頷いた冨岡は祖父源次郎のことを思い出した。
「そういえば、爺ちゃんも昔は吸ってたみたいです。一度肺を病んでから、きっぱり辞めたらしいですけどね。健康にも良くはないだろうし、吸わないなら吸わない方がいいですよ、きっと。あ、そうだ」
過去を振り返ったことで脳が刺激され、冨岡の頭で覚えておくほどでもなかったことがフラッシュバックする。
決して子どもたちが触れられないよう、一番高い棚の上に鍵付きの箱に入れて置いておいた物。
日本での買い出しを依頼している美作が、おそらく自分用に買い荷物に混ぜてしまっただろうタバコだ。喫煙者の彼にとって、いつも買っている物だから一箱くらい気づかなかったのかもしれない。
「ノノノカさん、もしよかったらこれ吸いますか? 俺は吸わないし、子どもたちが触れないように隠していたんですけど」
本当なら美作に返すべきなのだろうが、いつかどこかで役に立つかもしれない、とも思って手元に残していた。
小さな箱に入っているタバコを見て、ノノノカは不思議そうに首を捻る。
「何じゃ? 見たこともない文字じゃが・・・・・・これもニコチニアかの?」
「俺の国の文字ですよ。ちょっと待ってくださいね。これをこうして、ここを開けて、よし。これがタバコです」
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