第461話 公爵の行動理由

 階級制度の恩恵を受けるのは常に、上に立つ者だ。そして、全てを決める権限さえ持っている。

 そういった立場を守るためならば、なんでもするということだ。

 冨岡は漠然とだが、この騒動の原因を理解する。しかし、まだ腑に落ちないことがある。


「あの、ダルクさん。キュルケース公爵様が、こうなることをわかっていなかったなんてことありませんよね。法案を通そうとすれば、他の貴族たちから反感を買うことも、排除されかねないことも想定していたはずです」

「・・・・・・ええ」

「だったら、どうして今、その法案を? 例えば、他の貴族たちに根回しをして、味方を作るなんてこともできたはずです。時間はかかるかもしれないけど、その方が確実じゃないですか」

「それは・・・・・・そうなのですが、その」


 ダルクの返答は、どうにもはっきりとしない。言いにくそうに言葉を詰まらせるばかりだった。

 先程までの会話から冨岡は、彼が自分に気を遣っているのだ、と察する。


「もしかして、俺がいたから・・・・・・ですか?」


 自分がいるから。キュルケース公爵の行動と自分の存在がどのように繋がるのか、まだわかっていなかったが、冨岡は可能性として言葉にした。

 するとダルクは核心を突かれたかのように黙ってしまう。


「・・・・・・」

「ダルクさん、はっきり言ってください」


 冨岡は自分の中に残る、霧のような疑問を解消するべく問いかけた。

 その問いに大してはダルクではなく、ローズが答える。


「トミー、貴方のせいじゃないって言っているでしょ。お父様は自分の意思を貫いただけ。正しくは『トミーがいたおかげ』でね」

「俺のおかげで?」

「ええ、お父様はずっとこの国の状況を改善しようとしていたの。国のための国民ではなく、国民のための国にするべくね。でも、中々動けずにいたわ。立場もあるし、周囲との関係もあるもの。それにどう動くのが正しいのか、定まらなかったのもあるのかしら。その辺はダルクの方が詳しいでしょ。話しなさい」


 ローズはそう言って、腕を組んだ。キュルケース公爵の娘とはいえ、まだ幼い。それだけ大人びていても、全てを理解しているわけではないのである。

 そんな令嬢にそこまで言わせてしまったダルクは、覚悟を決めたように話し始めた。


「ローズお嬢様がおっしゃったように、旦那様はかねてからこの国の現状を憂いていらっしゃいました。どうすれば、より良くなるのか。悩み続け、せめて自分の目の届く範囲は・・・・・・と。旦那様がお忙しくされ、ローズお嬢様との時間を取れなくなっていたのも、それが理由です。そんなある日、旦那様は出逢われた。自分ではできないことを、当たり前のようにできてしまう方に。その方は自分の立場や利益など度外視し、困っている人々をあらゆる方法で救っていったのです。その姿は旦那様が理想とするものでした。立場や利益を度外視することでしか、見えない景色がある。飛び込んでみなければ、できないことがある。そうして旦那様は、今回の行動をお決めになったのです」


 ダルクは言葉の最後を少し溜め、冨岡に目をやる。


「トミオカ様と同じように」

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