第432話 人相の悪い幼女に脅されています

 応接室と言われていたが、貴族のそれとは違い豪華さを前面に押し出しておらず、シンプルなソファが向かい合わせで置いてあり、中間には机があるだけの部屋だ。

 そういえば、この世界に来てからこの形で家具が設置されているのを良く見る。いや、特別な形ではないし、椅子と机を組み合わせるのは至って普通のことなのでわざわざ疑問を持つことでもない。

 だが、応接室で待たされて暇になった冨岡は、あえて理由を考えてみた。それはこれからベルソード家の人間と会うことに対して、無意識に緊張をほぐそうとしているからだろう。考え事をすることで、自分の母親の関係者から意識が逸れる。


「向かい合う椅子と真ん中の机。便利だから・・・・・・じゃあ、面白くないよな」


 机を机だと考えるから、机としての理由しか思い浮かばない。まずは机があることで得る利を考えてみよう。

 ここは冒険者ギルドの大元。もっと言えば、剣や魔法が当たり前のように側にある異世界。

 いつ何時襲われるかわからない世界だ。

 そんな世界で初対面の人間と向き合うとき、無防備でいるわけにはいかない。だが大っぴらに剣を持っていられない状況もあるだろう。

 そういう時、真ん中に遮蔽物となる机があれば攻撃を防ぐことができる。また、そこにあっても不自然ではないし、一定の距離を稼ぐことも可能だ。

 それが正解かどうかは置いておいて、冨岡の出した結論は一定の距離を置くための壁。身を守る壁であるというものだった。

 冨岡が満足げに一人で頷いていると、扉が開いて長身の鎧が声を上げる。


「ベルソード家ご当主様、ノノノカ・ベルソード様が入られます!」


 随分と大仰な登場をするものだ、と思いながらも冨岡はソファから立ち上がって扉に目をやった。

 しかし、その視線上に人影はない。

 かと思うと、想定していたよりも下方から幼い声が聞こえてきた。


「おい、どこを見ておる。ここじゃ」


 幼い声に似つかわぬ口調。その声に導かれ、冨岡が視線を下げると、子ども用かと思うほど小さな軍服に身を包んだ女の子が腕を組んで立っていた。

 身長はフィーネと対して変わらない。肩よりも上で切り揃えられた金髪と、強い眼差し。幼いながらも精悍な顔つき。どう考えても幼女なのだが、なんとも言えない威圧感があった。


「えっと・・・・・・」


 冨岡が言葉を失っていると、幼女はソファにドカンと座り、足を組んでから口を開く。


「ノノノカ・ベルソードじゃ。遠慮せずに座るがいい。どうした、惚けた顔をしておるが」


 なんと言えばいいんだろう。端的にわかりやすくまとめると、冒険者ギルドを束ねる家の当主に会いにきたら幼女が出てきた件。そんなところか。

 ノノノカは不思議そうな視線を向ける冨岡に向かい、眉間に皺を寄せた。


「おい、失礼なことを考えておらんか? 言っておくが、ワシはお前が種になる前から生きておる。間違っても子ども扱いしてくれるなよ? 叩き切るぞ」


 人相の悪い幼女に脅されています。

 そんなことを心の中で呟きながら冨岡はソファに座り直した。

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