第424話 二人の魔王
今更『聞き覚えがある』なんてわざとらしい言い方はしない。魔王と言えば、リオの父親だ。
けれど、冨岡の中で美作の言う『魔王』とリオの父親である『魔王』がうまく繋がらない。
理由は簡単だ。時系列が合わない。
冨岡が大袈裟に反応したことで、美作は首を傾げる。
「どうした、アンタ。もしかして魔王に聞き覚えがあるのか? まぁ、二十数年前の話なんだから、人々の中で語られていても不思議じゃないだろうな。これは俺にとって幸運だぜ。ずっとその続きを聞きたいと思ってたんだよ。その後、魔王はどうなったとされているんだ? シャーナさんから聞いたのは、大規模な魔王討伐軍が結成されたってところまでだ。そこから始まる大きな戦いの話はシャーナさんも知らないところでな」
まるでお伽話の続きを催促するかのように、美作は少年のような瞳を覗かせた。
しかし、冨岡の中で戸惑いが大きく、言葉は辿々しくなってしまう。
「その、魔王は・・・・・・国軍に負けて、死んだそうです。でも魔王にも理由があって、いや、それでも許されないことはあると思うんですけど、ただ・・・・・・えっと」
「なんだ、引っかかることでもあるのか? 酔っ払いの足取りみたいな話し方になってるぜ」
「ちょっと待ってください。計算が合わなくて」
冨岡がそう言いながら自分の額に手を当てると、美作は揶揄うように微笑んだ。
「釣り銭が合わないレジバイトかよ。何の計算だ?」
「俺の母親が転移してきたのは、二十数年前ですよね?」
「ああ、そうだ。アンタの年齢から逆算すれば大体わかるだろ」
美作の答えを聞くたびに、疑問の色が濃く広がっていく。
「そうなんですよ。だからこそ計算が合わなくて・・・・・・今、俺が転移している先では『五年前』の話なんです」
「五年前? 何がだい」
「魔王が死んだ日・・・・・・『魔王の終焉』です」
もしも美作の言う魔王が、リオの父親と同一人物だとするならば、時間の流れがおかしい。
美作の言う魔王は二十数年前に討伐されたはずだ。けれど、リオの父親が死んだのは五年前。どう計算しても二十年の差が生まれてしまう。
すると美作は少し考えてから、こう話した。
「別人なんじゃないか? 二人の魔王がいるとすれば、計算云々は必要ないだろ」
「普通に考えればそうですよね。でも、俺はそれを確かめるのが少し怖いというか。いや、確かめなくても俺にはわかる・・・・・・もしも魔王が二人いるのなら、誰かがその話をするはずなんです。何度も魔王の話をしてきましたから」
「向こうで出会った人たちか?」
「ええ、だからこそ美作さんの言う魔王と俺が話に聞いている魔王は同一人物なはずです。だとすると・・・・・・」
言い淀む冨岡。
何をそんなに『怖い』と言っているのか、美作にはわからず不思議そうな顔を浮かべている。
だが、美作は考えている途中で『それ』に気づき、下唇を噛みながら頷いた。
「そうか、二人の魔王が同一人物だとするなら、アンタが転移している『異世界』はシャーナさんが転移してから五年ちょっとしか経過していないことになる。まぁ、謎だらけの鏡だ。時間のズレなんかが発生しても不思議じゃないだろう」
「そうなんですけど・・・・・・これまで俺が転移した先では、こっちで過ごした時間分経過していました。だけど、時間のズレが発生するなら、突然未来や過去に飛ばされる可能性もある」
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