第417話 アナザー・ワールド・ミラー
これこそまさに冨岡が辿り着きたかった話なのだが、美作があまりにもあっさりと話し始めるものだから戸惑ってしまう。
「み、美作さん、異世界転移って」
多少わざとらしいが、冨岡は言葉を繰り返すことでこの先も誤魔化す余地を残した。
すると美作は新しいタバコに火を着け、笑いながら最初の煙を吐く。
「ははっ、この話が聞きたかったんだろ? だからわざわざ異世界の話なんかをした。そんなまどろっこしい話の進め方をしなくても、聞かれれば答えるぜ。別に源次郎さんの身内に隠すつもりもないしな」
「あ、いや、えっと」
突然一気に話が進んでしまい、冨岡は次の言葉を失ってしまった。
聞きたいことがあったはずなのに、言葉として頭に浮かんでこない。
そんな冨岡の様子を見ていた美作はむせそうなほど笑う。
「なーに狼狽えてんだよ。意を決して、みたいな顔で異世界の話をし始めた時点で、こうなることくらい想定しておけよな。それに俺が『アナザー・ワールド・ミラー』について知っているかもしれないって思ってたんだろ? だからこの話をした。違うか?」
すんごいダサい名前がついていたんだな、あの鏡。
冨岡は異世界に通じる鏡に同情しながら、何とか言葉を紡ぎ出す。
「や、やっぱり知っていたんですね。あの鏡について」
「アナザー・ワールド・ミラーな」
「その名前どうにかなりません? 呼びたくないんですけど」
「仕方ないだろ、源次郎さんがつけた名前だ。まぁ、俺は鏡って呼んでるけどな」
だったら鏡でいいだろ、と思わないでもないが源次郎がつけた名前ならば尊重したい冨岡。
「そのアナザー・ワールド・ミラーについて、美作さんは知っていた・・・・・・そういうことですよね」
「鏡については知っているさ、そりゃな」
「おい、アナザー・ワールド・ミラーはどうしたんすか。だったら最初から鏡でいいじゃないですか。えっと、美作さんはいつから鏡について知っていたんですか?」
「最初からさ」
美作はそう言いながら鏡がある蔵に足を向け、そのまま歩き始める。
冨岡は同じ歩幅でついていきながら、美作に聞き返した。
「最初から? 最初って何が最初なんですか? ちょっとわからないことだらけで・・・・・・」
「まぁ、そうだろうな。元々、源次郎さんから鏡の話は聞いていないだろ? あの人は鏡について隠し続けていたからな。『事故』が起きないように」
「事故? 異世界に飛ばされないように、ってことですか?」
既に冨岡は異世界について隠すつもりはない。美作が認めているのだから、今更何かを隠す必要もないのだ。共通認識として、異世界は存在し蔵の鏡は異世界への入り口、もしくは出口として話は進む。
「ああ、そうだ。異世界に飛ばされるってのは、本来『神隠し』だとか『失踪』だとかそんな呼ばれ方をする事故だ。それが起きないように、源次郎さんは誰にもその話をしていない。アンタにもな」
「俺にも・・・・・・けど鏡をもう一度通れば、戻ってこれますよね。それほど大事故でもないんじゃあ」
「そうはいかない。話がそう簡単なら、俺はここにいないさ」
美作は言いながら蔵の戸に手をかけた。
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