第381話 熟成

 改めてノルマン宅で机を囲み、椅子に座るとノルマンは満足そうな笑みを浮かべる。


「いやぁ、どれもこれも美味かったのう。すっかり馳走になってしまったわい」

「お口にあったようでよかったです」


 冨岡が答えると、ノルマンは机を叩くような勢いで身を乗り出した。


「特にあの葡萄酒! なんじゃ、この世のものとは思えん美味さは。あれは葡萄の味以外にも何かが作用しておるな」


 この世のものではないのだから、この世のものとは思えなくて当然だ。

 考え込むような姿勢のノルマンに冨岡が語る。


「俺もワインに詳しいわけではないけど、選別された葡萄を使用しているみたいですね」

「確かに葡萄も良いものを使っておるんじゃろう。この場合は葡萄としての良さではなく、葡萄酒にするための葡萄としての良さじゃ。しかし、それだけでは説明がつかん芳醇さと、奥深さがあった。それの正体が気になっての」

「ああ、それは熟成が産んだものじゃないですかね、多分。ワインは熟成させることで香りや味わいが、まろやかになったり複雑になったり、新しい味を産む・・・・・・らしいですよ。本当に詳しいわけじゃないので、それくらいしか知らないですけど」


 聞き齧った程度の知識を披露する冨岡。

 するとノルマンは納得したように首を縦に振った。


「ふむ、熟成とな。なるほど、老いてこそ産まれるものもあるということか」

「そうかもしれませんね。若いワインとは比べ物にならない値段で取引されていますよ、長年熟成されたワインは」

「ほっほっほ、なるほどのう。老いることは何も悪いことばかりではない、ということか。確かに、若い頃にはない知識と発想力を得たかもしれんなぁ。いやいや、すまんの。昔の癖で、気になったことは放っておけんのじゃ」


 研究者だった頃の血が、疑問を許さないのだろう。

 一つの疑問を解いたところで、アメリアが本題に入った。


「あ、あの、ノルマンさん。それで、リオは・・・・・・その・・・・・・」

「ああ、アメリアさんと言ったの。余計な話をしてすまんかった」

「いえ、話に割り込んですみません」

「いやいや、それほど気にかけている、ということじゃろうて。これ以上、もったいぶっても仕方あるまい。答えようかの」


 そう言ってからノルマンは、目を閉じ息を整えた。

 彼は体内の重い空気を吐き出してから、その目に映った情報を言葉にする。


「青じゃったよ。リオの魔力は」


 冨岡から『魔力の可視化』や『魔王の魔力の色』について聞かされていたアメリアは、その瞬間に理解した。


「それじゃあ、やっぱり・・・・・・」

「ああ、間違いない。あの子は魔王の息子じゃ。魔力の色だけではない。顔立ちや雰囲気・・・・・・ワシが感じ取ることのできる全てが、そう語っておった」

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