第380話 老いてこそ時間の価値を知る
どうにも照れくさい会話が繰り広げられており、冨岡は黙ってワイングラスを傾けた。
その後も夕食会は和気藹々と進み、冨岡はレボルと今後の事業展開について、酒混じりに語り合う。
最初はノルマンに対し人見知りを発動していたリオも、次第に心を開き、途中から冨岡やアメリアと変わらぬように接せるようになっていた。
その二人を繋いだのは、太陽の様に明るいフィーネであることを忘れてはいけない。
気を遣うわけでもなく、自然にノルマンへと話しかけ、そのままリオを会話に混ぜる。そんな高度なトークを無意識にやってのけるのだ。
相手を選ばず懐に入っていく能力も、もしかすると聖女譲りなのかもしれない。
「それじゃあ、そろそろお開きにしましょうか」
冨岡がそう言い始めたのは、机の上の料理とワインがなくなりそうになった頃だった。
その言葉を待っていたかのように、レボルが立ち上がり、皿を片付ける。
「そうですね。じゃあ、私は片付けを」
「私も手伝います」
アメリアが手伝いを名乗り出たが、レボルは首を横に振った。
「いえ、アメリアさんはトミオカさんと一緒に、ノルマンさんを送ってきてください。子どもたちは私が見ていますから」
もちろんノルマンとの夕食会も今日の目的だったが、最優先は『リオが魔王の子』かどうかである。
子どもたちの前ではその話をすることはできない。レボルは気を遣い、ノルマンの話を聞けるようにしたのだ。
それを察した冨岡はアメリアに声をかける。
「アメリアさん、ここは甘えておきましょう。帰る時は屋台で一緒にですから、少しの間ですよ」
「あーそうですね、そうですよね。じゃあ、すみませんレボルさん、お願いします。フィーネ、リオ、いいですか? レボルさんの言うことを聞いていい子にしているんですよ。しっかりお手伝いをすれば、トミオカさんがお菓子をくれるかもしれません」
「それじゃあ教会に戻って、全てを終えたらお茶にしましょうか。まだ食べられるなら、お菓子も用意するよ」
二人の話を聞いたフィーネとリオは腕捲りをして、レボルの足元に集まった。
これで大丈夫だ、と冨岡はノルマンに帰宅を促す。
「ノルマンさん」
「あ、ああ、そうじゃな。楽しい時間はあっという間じゃ」
「何言ってるんですか、これでもう何もかも終わりみたいに言って」
「ほっほっほ、老いてこそ時間の価値を知るというものじゃ。いつお迎えが来るかわからんじゃろう。誰かと別れるときは覚悟するもんじゃよ。いつだって惜しい。老いとはそういうものじゃ。それに」
言いながらノルマンはリオに視線を送る。
まるで目に焼き付けるかのように。
冨岡たちはそんなノルマンを待ってから、三人でノルマンの自宅に移動した。
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