第378話 溢れる涙の色

 ノルマンの様子から、冨岡は察する。

 この老爺はリオから魔王の何かを感じ取ったのだろう。

 そのまま冨岡は、リオに向けられているノルマンの目に注目した。その瞳が映しているのは何色なのだろうか。

 老爺は優しげな表情のままリオに歩み寄る。


「変なことを聞いても良いかの?」


 そんなノルマンの問いかけを冨岡やアメリアたちは、黙って見守っていた。

 初対面のノルマンに対して、若干身構えるリオ。彼はおずおずと頷く。


「うん、何?」

「お前さんは幸せに暮らせておるか?」

「え? うん、今はすごく幸せだよ。アメリア先生やトミオカさんがいてくれるから」


 リオは少し照れくさそうに答えた。するとフィーネが唇を尖らせて、話に割り込む。


「フィーネも! フィーネもいるよ」

「フィーネは少しうるさい時がある」


 リオは姉か妹にでも言うかのようだった。

 微笑ましいやり取りに、冨岡とアメリアは思わず笑みが溢れる。

 ともかくリオは現在を幸せだと感じているのだ。その事実はノルマンにとって、どれほど嬉しいことだろう。彼の涙をもって冨岡はそれを思い知る。


「そうか・・・・・・そうかそうか。それは良かった」

「おじいちゃん、どうして泣いているの? 悲しいことでもあった?」


 フィーネが問いかけると、ノルマンはしわくちゃの手で涙を拭ってから口角を上げた。


「悲しいのではない、嬉しいんじゃよ。心配してくれたんじゃな、心の優しいお嬢さんだ」


 ノルマンはフィーネの頭を撫でる。


「へへへ、おじいちゃんも優しいね」

 

 撫でられて満足そうに笑うフィーネ。

 穏やかな空気に包まれた屋台の中で、これまで黙っていたレボルが口を開く。


「それぞれお話はあるでしょうけど、せっかく作った夕食が冷えてしまいます。まずは食事にしましょう」


 即座に冨岡が便乗して、食器を用意し始める。


「そうですね、今日は夕食会ですから。さぁさぁ、ノルマンさん座ってください。お酒は・・・・・・やめた方がいいですか?」

「なんじゃ、爺は酒を飲むな、と言いたいのか? 量を飲まなければ問題ないぞ。せっかくの料理ならば酒も飲ませて欲しいもんじゃのう。それに、今日はいい縁に巡り会えたよき日じゃ。こんな日くらい飲んでも神は怒らんじゃろうて」

「じゃあ、少しだけ。せっかくですからいいワインを開けましょう。レボルさんも飲みますよね」


 冨岡は早速棚から仕入れておいたワインを取り出した。冨岡の元いた世界で買い出しを担当している美作に、交渉や記念の折に開けるいいワインを買っておいてほしい、と依頼した際、美作が買ってきたワインだ。

 これは『それなり』のワインではない。『ものすごくいい』ワインである。

 会社員時代の冨岡ならば、値段を聞いただけで倒れていただろう。

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