第371話 それぞれの罪
その状況で自分の環境を捨て、断罪できる者がどれほどいるだろうか。
そもそも、その貴族様とやらの行動は問題だったのか、と冨岡は考える。
「あの、これまで話の流れ的にその貴族様が悪いことをしていた、と思ってたんですけど・・・・・・改めて考えるとそれほど問題なのでしょうか。出資して研究させる。研究者に最高の環境を用意する。それって結構普通のことでは?」
ここまで来れば、と素直に疑問を言葉にする冨岡。
するとノルマンはゆっくり頷いた。
「そうじゃな、その部分だけを考えればそうかもしれん。商いとはそういうものじゃ。しかし、この国にはこの国の規則があるんじゃよ」
「規則ですか?」
「うむ。『悪意』をもって魔法を独占することは大きな罪だからな。だからこそ、国民の生活水準を向上させる、などと銘打っておったんじゃ」
「悪意をもって、ですか? じゃあ、リュクセルの研究には悪意が存在した・・・・・・と」
そう、冨岡は覚えた違和感は情報の欠如によって産まれたもの。
その最後のピースを埋めるように、ノルマンは語る。
「リュクセルが魔法を研究していた本当の目的は、出資した貴族様が地位を手に入れることじゃ。それも手段を選ばず・・・・・・魔法を用いた他貴族の暗殺や、利権の独占。他国との不法な取引も存在した。もちろん、それを知っておったのはワシよりも上の最高幹部だけ。言い訳になるが、ワシは真実を知っていたわけではない。しかし、噂程度には知っておったんじゃ。しかと目を向けておれば、知り得たかもしれん」
「・・・・・・そうだったんですか」
「そうじゃ。そして、それを成した者がおる。それが『魔王』と呼ばれる男じゃよ。奴は独りで全てを調べ、勇敢にも断罪した。だが、それが原因となってリュクセルを追い出されてしまったの・・・・・・あれほど優秀だった男が」
ノルマンの口ぶりからして、リュクセル時代は魔王と親しい関係にあった可能性が高い。
そう考えた冨岡は、さらに問いかける。
「その、どんな人だったんですか、魔王って」
「優秀で正義感の強い男じゃったよ。集中力が強すぎるのは欠点とも言えるな。いや、あれは集中力というよりも、執着・・・・・・そう言った方が正しいかもしれん。澄んだ青色の魔力をしておってな、その奥に強い光を抱えておった。青色の魔力は珍しく、長く生きておるが魔王以外に見たことがないのう。って、こんなことを若いのに言っても仕方ないか。魔力は感じるものであって、普通見ることはできんからな。ほっほっほ」
「え、じゃあ、ノルマンさんは魔力を見ることができるんですか?」
「生まれつきな。特異体質というやつじゃ」
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