第362話 冨岡の答え
いくつか疑問を抱いた冨岡だったが、口から出たのは選択肢の中でも些細なものだった。
「えっと、ローズは読書をすることができるんですか? 貴婦人の間で流行っているということは、大人向けのものですよね。多少内容は難しいものだと思うのですが」
その疑問に対してローズは不思議そうな顔をする。
「貴婦人と私は同じ教育を受けているんだもの。同じ本を理解できない道理はないわ」
彼女は当たり前のように言うが、年齢差による理解度の違いは存在する。当然のように理解できるローズが特別なのだろう。
動揺の真っ只中にいる冨岡は『そういうものか』と、なぜか納得してしまい次の疑問に着手した。
「え、でも、教育上良くないというか・・・・・・男妾って初めて聞きましたよ。そもそも俺はローズより二十も上なんです。身分差もそうですし、年齢差もあるでしょう」
「そんなの関係ないわ。その小説『ニーズベルジの恋』では、こう言ってるの。『二人の間にあるのは身分差という壁ではないの。愛があるだけよ。その他のものは、愛という炎を大きくする薪に過ぎないわ』ってね。年齢差なんて愛を盛り上げる薪なのよ」
まるでその世界に入り込んだかのように言うローズ。うっとりとした彼女の表情は、恋に恋をしているといった様子だ。
恋愛小説を読んで、恋に恋焦がれたローズが刺激的な相手として選んだのが自分だった。冨岡はそう理解して、少し落ち着きを取り戻す。
突然の告白だったので、慌ててしまったが彼女は本気で言っているわけではない。いや、彼女なりに本気で言っているのだろうが、意味を深く理解しているわけではないのだろう。
その証拠に、ダルクが全く動じていない。
冨岡は深呼吸してからローズに言葉をかける。
「まずはありがとうございます、ローズ。確かにローズは賢く、大人も驚くほどの理解力を持っているでしょう。けれど、これからさらに多くのことを学んでいくんです。そして考えも変わる。話の続きはローズが大人になってからにしましょうね」
告白の答えを聞いたローズは、不満そうに頬を膨らませた。
その隣でヴェルヴェルディがクスクスと笑う。
「上手く受け流したみたいですね。しかし、断りはしない。トミオカさんは、優柔不断だと言われませんか?」
お願いだから静かにしていてくれ。ローズの機嫌をこれ以上損ね、話が拗れたらどうしてくれるんだ。
冨岡は視線の端に映るヴェルヴェルディに、心の中で不満を述べながら優しく微笑む。
「そもそも俺は不器用なんですよね。多分、秘密の恋には向いてないですよ」
そうローズに言うと、彼女は少し考えてから声高らかにこう宣言した。
「わかったわ。だったら、私がキュルケース公爵令嬢として、私の婚姻なんてなくてもこの家が繁栄を続けるように努力する。してみせるわ。そうすれば、誰も私の恋愛による婚姻を止めることはできない。見てなさい、トミー。十年後、あなたの方から私に花束を贈らせてみせるわ」
「覚悟しておきますね」
「楽しみにしてなさいよ」
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