第334話 選ばれし者

 不思議に思った冨岡は、窓に近づいて光を探す。

 しかし、どこにも見つからなかった。正確には少し離れた場所に建っている民家の小さな灯りはあったが、おおよそ明るいとまでは言えない。

 

「明るいって、外は真っ暗だよ、フィーネちゃん」


 冨岡が言うとフィーネも窓に近づき、外を指差す。その指は地面から空までをなぞった。


「赤色の布みたいなものが、ひらひらとしてるの」

「布?」


 足元にいるフィーネに対し、冨岡が聞き返す。

 詳しく説明されても、そんなものは見えない。赤色の光など見逃しはしないだろう。赤色灯は日本人である冨岡にとって、どうしても目につく色。警告の色である。

 わかりやすく目を擦ってみるが、突然現れるようなことはない。


「そんなものどこにもないよ。フィーネちゃん、君は一体何を・・・・・・レボルさんには見えますか?」


 もしかすると自分にだけ見えないものなのかもしれない、と冨岡がレボルを促す。

 魔法の類であれば、こちらの世界の者に見えるはずだ。

 自らも興味があり窓に近づくレボル。けれど彼にも見えず、首を傾げた。


「すみません、私にも赤い布のようなものは見えませんね。あるとすれば星々の小さな光くらいで」


 レボルの答えを聞いた冨岡は振り返り、アメリアとリオにも視線を送る。二人ともその場所から窓の外を見るが何も見えないらしい。


「私は何も」

「俺も・・・・・・」


 四人が見えないと言う中、フィーネだけは窓の外の光を目で追い続けていた。


「本当だよ! 赤い光がびよーんって。空から赤いカーテンが垂れてるみたいなの」


 話だけ聞けば、フィーネに見えているのはオーロラのようなものだろうか。だが、冨岡にはどうしてもそれが見えない。

 他の三人にも見えていないということは、単純に魔法の類でもなさそうだ。

 それでもフィーネが嘘を吐いているとは考えにくい。


「何が見えてて、それは何なんだろう」


 独り言のように疑問を漏らす冨岡。

 すると彼の隣でレボルが何かを思い出したかのように、息を吐いた。


「そういえば、聞いたことがあります」

「何をですか? 赤い光の話とか?」

「色は関係ないのですが、普通の人間には見えない光の帯の話です。その話のために魔法の基本を振り返りましょうか。何か魔法が発動された時、発動者の魔力と引き換えに何かしら事象が発生する。ああ、古い人間は魔素とも呼ぶみたいですね、魔力のことを。そして魔力は離散し消えていく。直後であれば肌で魔力の動きを感じとり、魔法が発動されたこと自体には気づくことができる。しかし、選ばれし者はその『魔力痕』を視界に捉えることができるそうです」

「選ばれし者?」

「勇者や賢者、聖女という方々ですよ」

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