第332話 急に湧いて出た?

 貴重すぎる魔石を超えた魔石。伝説級の代物をどんな経緯があって、アメリアが手に収めているのか。

 冨岡が屋台を出て、戻ってくるまでの短時間で何があったのか。

 全てを含めた疑問に対して、アメリアが答える。


「それが・・・・・・わからないんです」

「わからない?」


 急に湧いて出た訳でもあるまいし、アメリアが意思を持って魔石を手にしたはずだ。

 何がわからないのか、と続けたかった冨岡だが、彼女の表情を見て言葉を止める。

 本当に彼女自身、どういうことなのかわからないらしい。

 冨岡の疑問を察したレボルが、主観を捨てて説明を始めた。


「実は先ほど追加で郵便が届きまして」

「追加の郵便ってことは、他国の貴族様からですか?」


 確かに貴族様ならば、伝説級の代物を持っていてもおかしくはない。けれどそんなものをアメリアに贈る理由はないだろう。

 送り主がわかっても疑問は尽きないのだが、レボルはその仮説すら否定した。


「いえ、送ってきたのはエスエ帝国の伯爵様ではありません。差出人不明の荷物だったんですよ」

「差出人不明・・・・・・ですか」


 そこで冨岡はまた新たに疑問を抱える。


「ちょっと聞きたいんですけど、そんな魔力を含んだ石なら、梱包されていてもわかるはずじゃないですか。郵便を運んできた業者? の方に聞けば差出人がわかりませんか?」


 そんな疑問に対して、レボルは机の上にある布を指差して答えた。薄汚れた端切れのようにしか見えない布である。


「おそらくその布が魔力を封じ込めていたのでしょう。もちろん『おそらく』ですので、仮説でしかないですが・・・・・・梱包を解いた直後に魔力を発し始めたので、布が封じ込めていたという事実だけは確かです。それほど魔法に明るい方ではありませんので、魔法を専門とする者に確認してもらえれば・・・・・・と。もしかすると、いえもしかしなくてもその布自体も貴重な物でしょうし」

「じゃあ、郵便の業者も気付けなくて当然ってことですか。ただの小さな郵便物でしかなかったわけですもんね」

「ええ。ただ一つだけ訂正するのなら、私たちは郵便配達員を見ていない、ということです」


 レボルにそう言われた冨岡は、彼が何を言いたいのか一瞬ではわからなかった。

 郵便配達員を見ていない、なんてそれほど珍しいことではない。小さな荷物くらいならば郵便ポストに入れるだろうし、置き配という方法もある。

 わざわざ郵便配達員を見ていないことに言及する必要はないはずだ。

 そこまで思考を巡らせたところで冨岡は、自分が屋台にいることに気づく。

 教会に届けられる荷物があったとして、配達員がその目の前に停まっている屋台に気づかないわけがない。

 暗い中、灯りもあり人影も見えるだろう。

 冨岡がいない時間に届けられた荷物ならば、配達員を見ていないはずがなかった。

 急に湧いて出た説が、再び冨岡の頭の中に浮かび上がる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る