第326話 冨岡とリオ
今後、飲食事業をレボルに任せることを考えれば、彼と馴染みのある人間を雇うのが一番効率的だろう。
当然ながら冨岡が面接し、人間性に問題はないと判断した二人だ。
二号店の稼働は、レボルがその二人に仕事を教え終えてからである。
次に大きく動いたことといえば、メルルズパンに従業員が増えたこと。移動販売『ピース』の事業拡大、認知度向上を踏まえて今のままではパンの数が足りない、と冨岡がメルルに持ちかけたことである。
「メルルさんのお店にも従業員が入りましたもんね」
アメリアが話の流れで思い出し口にした。
「従業員というより弟子みたいな感じですよね。パンといえば硬くスープと一緒に食べるってイメージを払拭するために、メルルさんのパンに惚れ込んだ人を雇ったそうです」
冨岡がそう説明すると、アメリアはさらに問いかける。
「どんな人なんですか? その方って」
「一度挨拶だけしたのですが、可愛らしい女の子でしたよ。雰囲気は大人しめかと思いきや、パンの話になると目を光らせてました。あれは・・・・・・メルルさんと同じ目ですね」
女の子という言葉だけでアメリアは一瞬眉を動かしたが、誰も気づいてはいない。
メルルズパンに従業員が入ったことで、移動販売ピースの営業は滞りなく進むだろう。
他にもまだ完了していない事項が一つ。冨岡は現在、街中で店舗を探していた。
移動販売『ピース』の本拠地を、街中から外れたこの場所に置いておくのはやはり不便が多い。街中の方に住んでいるレボルやその弟子たちが、わざわざここに出勤してきてまた街中に行くのも非効率的だ。
店舗探しの方は、キュルケース家執事ダルクの協力によって進めている。そうして店舗が持てれば、元の世界から持ち込んだものを売る雑貨店のようなものも営業可能だ。これによってさらに事業拡大が見込める。
何もこの数週間で進んだのは、こういった事務的な話だけではない。
「トミオカさん、ここ教えて欲しい。どうして水は熱くなるとなくなるの?」
話しかけてきたのはリオである。冨岡が小学生の教科書を読み、アメリアがこちらの言葉で書き写したものを読ませているのだ。
今リオは、水の蒸発について学んでいる。
計算や言葉よりも、様々な現象に興味を持っているらしい。理科の勉強を好んでいた。
そんな勉強を通して、リオは冨岡に懐きつつある。
「水が蒸発すると水蒸気になって見えなくなるって話だね。目に見えないだけでなくなってはないんだよ。分子っていう細かな粒になって飛び回るんだ」
「ブンシ・・・・・・魔法じゃないんだね」
完全に理解したわけではないリオだったが、さらに読み進めたい、という様子で頷きながら紙に視線を落とした。
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