第308話 照れあう二人
「ありがとう、アメリアさん。出会えたのがアメリアさんで本当に良かったです」
冨岡が穏やかな瞳を向けると、アメリアは頬を赤らめて照れ笑いを浮かべた。
「わ、私もトミオカさんに出会えて、その」
アメリアがそう言いかけると、フィーネが揶揄うように「先生、真っ赤」と言葉にする。
照れの感情が伝播し、冨岡まで顔が熱くなってきたところでミルコが咳払いをした。
「んんっ、話がまとまったなら次に進めたいのだが、いいか?」
一部始終聞かれていたことを自覚し、冨岡は慌てて頷く。
「も、もちろんです。ね、アメリアさん」
「はい! 学園づくりの話ですよね」
二人があたふたする姿に微笑みながら、ミルコは学園の平面図を指差した。
「じゃあ、アメリアさんとしてもこの方向で進めて良いってことだな?」
「ええ、もちろんです」
「なら、次は着工の話だ。キュルケース家もトミオカさんも、出来るだけ早く学園を作りたいって方向だから、作業員が集まり次第着工になる。あとは木材を調達して・・・・・・」
頭の中で工事の予定を立て始めるミルコ。
そこから先の話は冨岡にも理解できない職人の領域だ。
餅は餅屋というように、理解できない箇所に口出ししても仕方ない。冨岡が黙っていると、ミルコは察したように動きを止める。
「っと、これ以上ここで話してても進まないよな。すまない、これからも予定があるはずなのに時間を使わせてしまった。とりあえず俺はしっかりとした図面を完成させておくよ。木材や人員の調達もキュルケース家と連携すれば、それほど時間はかからないだろう。あとは、トミオカさんやアメリアさんがその間どこに住むか・・・・・・ってところだな。寝室から始めれば工事途中からでも住むことはできるだろうが、工事してないところで寝てもらうことになるかもしれんな」
確かに工事中、どこで生活するのかは事前に考えておかなければならない。
教会には寝室以外も様々な部屋があるので、工事しているところを避けていけば、住み続けられるだろう。
さらにミルコは言葉を続けた。
「いや、普通の工事ならそれでもいいが、学園づくりを急ぐのなら人員を投入して、一斉に工事を進めたほうがいい。それについても含めて、持ち帰って考えてみるさ。これから貧民街に向かうんだろ?」
ミルコに問いに対して冨岡は頷きで答える。
今日の目的はアメリアの意思確認と許可を得ることだ。全て達成したミルコは、徐に立ち上がる。
「じゃあ、俺はこれで帰るよ。図面は・・・・・・そうだな。明日にでも出来上がると思うし、完成したらこの広場にくればいいか」
存外早く図面が完成することに驚く冨岡たちを置いて、ミルコは工房に戻って行った。
ミルコが帰ったあと、冨岡たちは予定通り貧民街へ向かう。
毎日毎日何か問題が起こるわけもなく、貧民街でのハンバーガー配布を平和に終えると、教会に戻った。
移動販売『ピース』の業務が全て終わり、レボルを夕食に誘う冨岡。
一緒に夕食の準備をしようと、食材を選別しているとアメリアが屋台の外に何かを見つける。
「あ!」
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