第287話 いつの間にか目の前

 その後、起きてきたフィーネとアレックスを連れて屋台は広場に向かっていく。

 三人を見送った冨岡は、教会の中で最初にこの世界に持ち込んだ荷物の中からノートとペンを取り出し、ここから先、どうすれば最短で学園づくりに繋がるのかを思案していた。


「キュルケース公爵様の力添えは必要だけど、管理下に置かれるのは困るよなぁ。信頼していないわけじゃなく、貴族のいざこざに巻き込まれかねないし。そうなると、資金自体は絶対に用意しなければならない。一番手っ取り早いのは換金か・・・・・・向こうの世界から持ってきたものをそのまま金にすること」


 そこで冨岡は、買取に出していた指輪のことを思い出す。


「そうだ、金の指輪。そろそろ確認のために話を聞きに行ってもいい頃かな」


 金をこちらで換金すれば、一気に資金は貯まるだろう。しかし、話はそう簡単ではない。

 一つ目の懸念点は金の消滅。元の世界、分かりやすく地球を表現しておこう。異世界に持ち込み、換金すれば地球からその分の金が完全に消滅することになる。

 元々貴重な金属だ。どの程度無くなれば、世界に影響を及ぼすのかはわからないが、学園づくりが可能になるほどの量ならば余計な波風を立ててしまうだろう。

 二つ目の懸念点は異世界への影響。こちらの世界でも希少な金属として扱われているものを、突然大量に流通させればどうなるだろうか。

 一気に価値が下がるかもしれないし、何かしらの混乱を招く恐れもある。

 

「金で大儲け作戦は楽だろうけど、地球と異世界って特殊な関係的にあんまりよろしくはないか」


 真っ直ぐすぎる作戦名を恥ずかしげもなく口にした冨岡は、金の指輪に関して、何度も使える手段ではないと結論づけた。

 そもそもどれくらいの資金が必要なのか、と冨岡は考えてみる。

 まずは教会の改装費。今のままでは住み続けられないことがわかっているので必須だ。

 その他をおおまかにまとめると、自分や子どもたちを養う費用である。


「改装費分だけ金で稼いで、残りは仕事を大きくしていけばなんとかなる・・・・・・か。あれ? それじゃあ、教会の改装さえ済めば学園としては機能するのか」


 移動販売『ピース』も順調に進み、料理人や貴族とのつながりも得た今、目標まではそれほど遠くないことに気づいた。

 目の前のことを真剣にこなしていけば、遠かった目標もいつの間にか見えてくる。そういうものだ。

 冨岡がノートに『改装費』と書き込んだところで、教会の扉がギギギと音を立てる。

 誰かが入ってきたことに気づき、冨岡はノートを閉じた。

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