第286話 ホワイト
どうやらアメリアの真意は、寂しさを埋めてほしいことにあったようだ。
満足したアメリアは「コホン」と咳払いし、何事もなかったかのように冨岡から離れる。
「じゃ、じゃあ、おやすみなさい」
本当に抱きしめるだけで良かったのか、と少し残念な気持ちになりながら冨岡は微笑んだ。
「おやすみなさい、アメリアさん。また明日」
冨岡とアメリアが二人になれる時間。目標に向かって進み続ければ、それほど多くは取れない。フィーネが眠り、明日の準備をし、冨岡が美作へのメールを送った後、となればもう深夜だ。
翌日もパンの仕入れ等があるので、少しでも早く寝なければならない。そう考えれば貴重な時間だろう。
寝室に消えていくアメリアを見送り、冨岡は呟いた。
「収入が安定して学園が始まれば、一緒に過ごせる時間も確保できる。もっと頑張らなきゃな」
翌朝、挨拶を交わす間もなく、冨岡は元の世界に物資を取りに行った。昨日と同じようにお金を置いておき、翌日分に回す。
食材と一緒にホームセンターで買ったであろう大工道具一式、原付のカタログが置いてあった。
原付の中からこれだ、と直感したものに赤ペンで印をつけ、ページを開いて玄関に置く。その後、美作にメールで『印のある原付を購入しておいてほしいです』と送った。
美作ならばなんとかしてくれるだろう。深夜に山奥で土の採取をしていたくらいだ。正規の料金で原付を購入してくるくらい問題ない。なんて勝手な期待を込める冨岡。
「これでよし、っと」
荷物をリアカーに載せ、異世界に向かう。
ちょうどその時刻は、アメリアがパンの仕入れに行っている頃。
冨岡が教会に戻ると、仕入れてきたパンの積み込み作業を行なっていた。
「おはようございます、アメリアさん。手伝いますよ」
冨岡が声をかけると、アメリアが振り向くとともに屋台の中からレボルが顔を出す。
「おはようございます」
「おはようございます」
二人同時に挨拶を返すと、冨岡はレボルが来ていたことに驚いた。
するとアメリアは「今日はトミオカさんがいないということで、早く来てくださったんですよ」と説明する。
「それは凄く助かりますね。ありがとうございます、レボルさん」
「いえいえ、仕事は準備が八割と言いますからね。この時間も仕事です」
優しく言うレボル。
非常に助かるのだが、元の世界で考えれば早朝出勤にあたる状況だ。冨岡は心の中で早朝手当を上乗せしようと決定する。
誰かの時間を無為に犠牲した仕事が、他人を幸せにできるはずがない。働いている側が幸せになれる職場であるべきだ。
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