第282話 ハイボール
机の上にはハイボールの空き缶が置いてあり、その横には調理に使う胡椒や塩の容器が並んでいる。
もしかして塩をつまみにして呑んでいたのか、と冨岡は驚いて目を見開いた。
お酒好きの中には調味料だけで呑める人もいる。レボルもそうなのだろうか、と勝手に想像する冨岡に対して、レボルが笑いかける。
「いやいや、別に塩を舐めながら呑んでいたわけではないですよ。これほど綺麗な塩は中々お目にかかれませんし、胡椒に関してはスパイスと同じく高価なものですから、勝手ながら味見をさせていただいただけです。どちらもハンバーガーに使うものなので」
料理人として使っている調味料の味が気になったのだろう。
素材そのものの味を知ることで、どのような料理に使用するか、頭の中でレシピを構築していくのだ。
「全然、どの食材でも勝手に食べてもらって構わないですけど、塩や胡椒だけでは味気ないでしょう?」
冨岡がそう言うと、レボルは顔がくしゃっとなる無邪気な笑みを浮かべる。
「いえいえ、どちらも料理人心をくすぐってくれましたよ。その流れでどの食材に合わせようか考えていた所です」
「あれ? ハイボールに合わせるなら、とかじゃなかったんですね」
「はいぼーる・・・・・・ああ、この酒ですね。こちらも素晴らしかったですよ。合わせるなら味の濃いものがいいでしょうか。香り高く爽やかな飲み心地でしたから、食事中にいただくのにも向いているでしょうね。酒精はそれほど強くなく、さっぱりとしていて飲みやすい。すっきりと冷やしたハイボールを、冒険者ギルドで売れば飛ぶように売れると思いますよ」
レボルの感想を聞いた冨岡は、流石だなぁ、と頷いた。
味の分析だけではなく、どこに需要があるのかまで考えてくれている。そしてその分析は的確だった。
一般的にハイボールは揚げ物やソース、スパイス料理に合うとされている。その点から、レボルの下は信頼できることがわかった。
そうであれば、冒険者ギルドでハイボールの販売を考えてもいいかもしれない。
「冒険者ギルドで・・・・・・なるほど、確かにほとんどの人が酒を飲んでいましたね。けど、レボルさん以外はほとんど同じような酒を飲んでいたような気がします」
冨岡はそう言いながら椅子に座る。続けてアメリアも着席した所で、レボルが答えた。
「そうですね、そもそも酒の種類がそれほどないんですよ。蜂蜜酒か果実酒か・・・・・・何人かの酒好きは、私のように自分で取り寄せたものを置いているのですが、やはり高価になる。仕方なく、ギルドにある酒を飲んでいるって感じです。その種類が豊富になれば、誰もが喜ぶでしょう」
冒険者ギルドに本格的な酒場を置かせてもらうとなれば面倒だが、スーパーで買ってきた酒を卸すのならば大した手間はなく商売になるだろう。
「それもありですね」
冨岡はそう同意してから、今は酒の話や商売の話をする時間ではないと思い出した。
「まぁ、酒の話はまた後で。とにかく今日の情報共有をしておきましょう」
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