第280話 過去に縛られない判断
味だけではなく、料理そのものを評価するレボル。
もちろん冨岡が考案した料理であるはずがないのだが、カレーが評価されるのは嬉しい。見た目は完全にマイナス評価だったものをひっくり返し、これだけの高評価を得たのだ。
冨岡は得意げに言う。
「カレーには色んなアレンジ方法があるので、また今度作りますね。その上で、レボルさんならどんなアレンジをするのか、考えてみてくださいよ」
「ほう、これだけの料理に手を加える・・・・・・それは難問ですね」
こうして夕食はスパイスの香りに包まれながら、にこやかに進んでいった。
最初は遠慮気味だったアレックスも、温かな空気に触れ少しずつ心を開く。最終的には自らおかわりを頼めるようになっていた。
父親ブルーノとの暮らしで、自分の空腹を伝えることに抵抗を覚えていたはず。そんなアレックスが「もう少し食べてもいい?」と自分から聞いてくれたことで、冨岡やレボルはつい笑みをこぼした。
夕食後、アメリアはフィーネとアレックスを寝かせるために寝室に向かう。
冨岡とレボルは、アメリアに情報共有するために後片付けをしながら屋台で待っていた。
「すみません、レボルさん。こんな遅くまで」
皿を洗いながら冨岡が言うと、レボルは優しく首を横に振る。
「いえいえ、この歳になって新たな味に出会えたんですからむしろ感謝してますよ。やはり料理の世界は深い。一生をかけて追いかけ続ける価値のあるものですよ」
「その人にとって、一生かけて追いかけたいと思えることは幸せですよね。仕事にしても趣味にしても。でも、それを失った時の反動は大きい。ブルーノさんにとって林業はそれだったんですかね」
ふとブルーノのことを慮る冨岡。
レボルは冨岡が洗った皿の水分を拭き取りながら答える。
「工房を持つ、ということは容易ではありません。一生どころか子々孫々まで林業を貫くつもりだったでしょう」
「そっか、そうですよね。それを失ってしまい、ブルーノさんもまた傷ついていたのは事実」
「足元が崩れ去り、真っ暗な谷底に落ちていくようなものでしょうね。何も見えず、どこが地面なのかもわからない。その結果、何が正しいのかすらも判断できない瞬間があった。まぁ他人である私たちが、彼に対して許す許さないなんて言えませんが、本人に変わりたいという気持ちがあり、アレックスもれを望んでいるのなら過去は過去と割り切るべきでしょう。私たちがブルーノさんに、過去に縛られるなと言ったように」
そんな話をしながら片付けを終えると、冨岡は冷蔵庫から缶ハイボールを取り出した。
自分が飲むためではない。元の世界での買い出しを頼んでいる美作に、買い出しのメールを出していないことを思い出し、一度この場を離れるためだった。
「レボルさん、ちょっとだけ出てくるのでこれでも飲んで待っててもらっていいですか? すぐ戻ってきますから」
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