第279話 カレーは正義

 カレー界最大のタブーを阻止する冨岡。須く幼い子をどタブーに触れやすい。

 どれだけ話していても食欲を湧かせることは難しい、と考え冨岡は自ら率先して食べ始める。


「カレーは本当に美味しいんですよ」


 スプーンで端から寄せるように米を掬い、カレーの部分に浸してから口に運んだ。

 一気に広がるスパイスの香り。甘口でも一瞬辛さを錯覚してしまうのは、カレー即ち辛いものだという先入観があるからだろう。

 野菜を噛み締めると甘みが広がり、料理界でも屈指の味の濃さを誇るカレーと混ざり、これ以上にないハーモニーを奏でる。

 

「うん、やっぱこれだなぁ」


 冨岡が食べている姿を見て、すぐに動いたのは幼い二人だった。

 フィーネとアレックスは同時にスプーンを取り、カレーを口に運ぶ。

 その瞬間二人とも目を見開き、口の中に広がる香りの波の凄さを表現した。


「うわぁ!」

「・・・・・・美味しい」


 朗らかに喜ぶフィーネと、噛み締めるアレックス。二人のテンションには大きな差があるものの、どちらも好意的な反応だった。

 さらにフィーネは言葉を付け足す。


「すっごい美味しいよ、これ! なんかね、なんかね、いっぱい美味しいの」


 彼女なりの言葉でカレーを説明した。おそらく様々な食材が入っていて、どれも美味しいことを言っているのだろう。

 幼い二人が食べ進めたのを見て、アメリアも一歩踏み出した。


「それじゃあ、私もいただきます」


 大人であればあるほど、先入観は濃く強い。

 それでもアメリアはスプーンを取ってカレーを掬う。口元に運び、再び覚悟を決めてから口に入れた。

 

「んっ!」


 思わず声を漏らすアメリア。

 カレーの凄さは、それほど食欲のない時でも食べ始めればお腹が空いてくるところにもある。

 躊躇していたことを忘れさせるほどの旨みが広がり、アメリアの表情は明るくなった。


「本当に美味しい・・・・・・すごく複雑な味なのに、一つにまとまっている感じがしますね」


 アメリアのコメントに冨岡は微笑む。


「そうですよね。カレーは何を具材にしても、最終的にまとまって美味しくなるんです」


 その後、これまで待っていたレボルもカレーを食べ始めた。


「それでは私もいただきますね。私の場合、躊躇というよりも緊張して中々手がつけられなかったんですよ。人生の中で一度食べられるか、というような高級品ですから」


 料理人の舌はカレーにどのような判定を下すのか。冨岡はレボルの反応を待つ。


「どうですか、レボルさん」

「・・・・・・これは素晴らしい。なるほど、形ある野菜以外にもソース自体に野菜が溶け込んでいますね。これはかなり煮込まれた味だ」


 それは完全に食品会社の企業努力です。


「野菜以外にも果実が溶け込んでいますね? ふむ、なるほど。とろみがあることで、この穀物とよく絡む。なんて完成度の高い料理なんでしょう」

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