第247話 オーナーの素養
「ははっ、それは良かったです。体力的にしんどくはないですか?」
「そんなことはないよ。冒険者として鍛えていましたからね。むしろ久しぶりに料理人として働けていることに喜びを感じるばかりさ。まだまだ頑張れますよ。ここで得た知識を基に、いつか新しい料理を考えて形にするのが楽しみです」
レボルがそう語ると、冨岡は閃いたと言わんばかりにこう提案する。
「その『いつか』は『今』じゃだめですか?」
「え?」
冨岡の閃きについていけず、戸惑いを言葉にするレボル。
その戸惑いのまま彼は「どういうことですか?」と付け足した。
「完全に思いつきではあるんですけど、俺よりもレボルさんの方が料理にも詳しく、この街の人々の好みを知ってるじゃないですか。そんなレボルさんがどんな料理を作るのか気になりますしね」
「あ、そういうことですね。この店の新メニューを・・・・・・なのかと思い驚いてしまいました」
「ははっ、何を言ってるんですか」
軽く笑って冨岡がそう返すと、レボルは安心半分残念半分な表情で頷く。
「そうですよね」
「この店の新メニューに決まってるじゃないですか。こんなことをお願いするのは失礼ですかね?」
「いえ、そんなことは・・・・・・料理人ならば自分の料理を作り、売りたいと願うものです。もちろん、私も・・・・・・しかし、料理店のオーナーとなれば、その店を自分の思い通りに動かしたいもの。メニューはその店の顔です。今日入ったばかりの新人にそれを任せるなど、聞いたこともありません」
再び動揺し始めるレボル。ちょうどその時、カウンターから顔を覗かせていたアメリアが「ふふっ」と笑った。
「そういう人なんですよ、トミオカさんは。一般的な価値観なんて置き去りにするような発想を持っている方ですから」
アメリアの言葉を聞いた冨岡は苦笑する。
「そんなことないですよ。せっかくレボルさんほどの人が働いてくれるんですから、腕だけじゃなくて発想力や知識も借りたいじゃないですか」
「普通、そうは考えませんよ」
微笑みながらアメリアが言うと、レボルは思わず笑い出しそうな顔で言葉を引き継いだ。
「そうですね。普通は雇いの料理人に、店のメニューを任せるようなことはありません。たとえ売れても料理人の功績になってしまいますから」
「それの何が問題なんですか?」
首を傾げなら冨岡が問いかけると、レボルは思わず吹き出してしまう。
「ふっ、はっはっは、なんでもありません。そうですね、こういう方ですか。邪気など微塵も感じられないし、私を信頼してくれているのでしょう。なるほど、なるほど」
「何がですか?」
「ついていきたい、守りたい。そう思わせるのもオーナーの素質なのでしょうね。わかりました、僭越ながらこの場所と食材をお借りして料理を考えてみますよ」
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