第244話 初出勤の料理人

 魚を食べなれていない二人に骨の取り方を教えつつ、朝食を済ませる冨岡。

 久しぶりに食べる焼き魚は懐かしさも相まって、涙が出るほど美味しい。これぞ家の味だ、と食後の緑茶を飲む。

 紅茶の時とは違い、緑茶独特の苦味と渋さが慣れない様子のアメリアとフィーネ。

 冨岡としてもいつもより苦いように感じる。

 こういう銘柄なのか、と思いながら飲んでいるが、問題は冨岡の淹れ方にあった。

 紅茶とは違い、緑茶は一定の温度を超えると渋みが強く出始める。

 それと比べ旨みの出る温度は低く、高級茶であれば七十度前後のお湯で入れるのが良いと言われている。

 そんなことを知らない冨岡は沸騰したお湯で淹れてしまい、完全に渋みを抽出した緑茶となってしまったのだ。もはや渋茶である。

 お茶の味はともかく、腹を満たした冨岡たちは食器を片付け、それぞれの仕事を始めた。


「じゃあ、動かしますね」


 そう声をかけてから屋台を引き始める冨岡。

 その屋台の中でアメリアはハンバーグを焼き始め、フィーネはそれを手伝う。

 いつも通りの道で広場に向かうと、昨夜冒険者ギルドで勧誘したレボルが既に待っていた。

 屋台を停止させる前にレボルの姿を確認した冨岡は「レボルさん」と呼びかける。


「ああ、トミオカさん。おはようございます」

「おはようございます、レボルさん。お待たせしちゃいましたか?」

「いえ、今来たところです」


 レボルはそう答えてから、冨岡が屋台を停止させるのを待った。

 屋台を定位置に置いた冨岡は、改めてレボルに話しかける。


「それじゃあ、今日からよろしくお願いしますね」

「はい、それにしても凄い屋台ですね。大きさもそうですが、色も目を引く・・・・・・いいですね、白は清潔感があって」

「飲食店ですからね。清潔感は大切じゃないですか」


 自分の考えた白い屋台を褒められ満更でも無い冨岡は、そのまま屋台の中にいるアメリアに声をかけた。


「アメリアさん、ちょっといいですか?」

「はーい」


 軽やかな返事をしてカウンターから顔を出すアメリア。そんな彼女と目が合ったレボルは丁寧に頭を下げる。


「どうも、本日からお世話になります。レボルと申します」


 事前に冨岡から話を聞いていたアメリアは、同じように頭を下げた。


「トミオカさんから聞いています。レボルさん、ですね。私はアメリアです。こちらこそよろしくお願いします」


 アメリアと挨拶を交わしたレボルは、何かを納得したように微笑みながら頷く。


「なるほどなるほど」

「どうしたんですか?」


 そんなレボルの反応が気になり、冨岡が問いかけた。

 するとレボルは冨岡の耳に近づき、小さな声で言葉を返す。


「トミオカさんが、人柄を重視して護衛兼料理人を探していた理由がわかりましたよ。彼女のことを大切に思っているから、じゃないかい?」

「えっ、あ、それは・・・・・・はい、そうです。でもそれだけじゃなくて」


 言いながら冨岡はレボルをカウンターの近くまで連れていき、中を覗かせた。

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