第234話 絶対ともしも

 冨岡の言葉を聞いたアメリアは弱々しく笑みを浮かべた。


「建て替える方向で、と言っても金貨三百枚なんて・・・・・・普通の人が人生の大半を費やして稼ぐ金額です。今、トミオカさんのおかげで食べていくに困らない金額を稼げてはいますが、ここを建て替えるなんてまだまだ・・・・・・」


 移動販売『ピース』はこの街で流行っていると言ってもいい。しかし、それは屋台の中では売り上げがある、程度の話だ。日本円にして三千万円などそうそう簡単に稼げるわけがない。

 その金額の重さを理解しているアメリアは、現実的に不可能だと考えてしまう。

 しかし冨岡は金貨三百枚を用意することが不可能だとは考えていなかった。


「まだ『絶対』なんて言えはしないですから、アメリアさんの気持ちを確認したいんです。全ての『もしも』を集約して考えてください。お金がなんとかなれば、建て替えを進めてもいいですか?」


 食い下がってくる冨岡に押されたアメリアは、戸惑い気味に頷く。


「は、はい。もちろんです・・・・・・私の努力だけでは守れないものがある、とようやく気づけましたから。フィーネのことだって私一人では・・・・・・」

「そんなことはありませんよ。少なくとも、フィーネちゃんがこんなにいい子に育っているのはアメリアさんのおかげです。厳しい世界でここまで生きてこれたことも。アメリアさんが自分の全てを懸けて努力していたおかげなんです。もちろん、フィーネちゃんがどれだけ苦しくても笑顔でいたことが、アメリアさんを支えていたんだよ」


 アメリアの言葉に返答しながら、冨岡はフィーネにも笑顔を向ける。

 するとフィーネは嬉しそうに口角を上げた。


「ふふふ、フィーネは先生大好きだもん」

「俺だって、アメリアさんやフィーネちゃんが大好きだよ。だから俺にできることはしたいんだ。絶対は言えない、なんて弱気なことを言いましたが、訂正します。絶対にお金はなんとかするから、アメリアさんたちが住み続けられるように・・・・・・ここから全ての人を救えるように、ここから優しさの輪を広げていけるように、この教会を建て替えさせてください」


 冨岡の熱い思い。その全てを背負った言葉がアメリアの鼓膜を揺らし、鼓動と呼応する。

 アメリアも本心では教会を残し続けたいと祈っていた。建て替えてでもこの場所を守りたい、と。

 冨岡の言葉で本心に気づけたアメリアはうっすら涙を浮かべながら、細い声で頷く。


「はい・・・・・・お願いします」

「お願いしますって、何言ってるんですか?」

「え?」

「みんなで頑張るんですよ。俺だけじゃない、アメリアさんとフィーネちゃんと三人で。だから『申し訳ない』とか『ありがとう』とか必要ないんです。屋台だって俺一人が頑張ってるわけじゃないでしょう?」

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