第228話 何でも屋は何でもするらしいです

 このタイミングで何でも屋の美作に電話をかける理由は一つだ。


「実は美作さんにお仕事を頼みたいと思ってて」

「俺に仕事?」

「ええ、こんなことをお願いしてもいいのか、とも思うんですけど、他にそんなサービスをしてくれるところがあるのか知らないので」


 もったいぶった話し方をする冨岡に痺れを切らし、美作は単刀直入に問いかける。


「ぐだぐだと話す男はモテないぜ。要件だけサクッと話してくれないか?」

「何でも屋って買い物代行とかしてますか?

「買い物代行? ざっくり言えば『おつかい』ってことか。買い物代行なら専門の業者がいるだろう。店によっては結構な安値で請け負ってる。なんなら宅配サービスやら通販やらいくらでもあるだろうよ」


 美作の言う通り、商品を家まで運んでくれるサービスはいくらでもある。しかし、冨岡には特殊な理由が二つあった。

 一つ目は新鮮な食材の買い物がメインであるということ。もちろん生鮮食品の宅配サービスはあるが、店で使う食品となると種類や量が多い。選べる商品に種類がスーパーと比べれば少なく、自由に調整しづらくなるだろう。

 二つ目の理由は冨岡の住所にあった。

 冨岡が拠点としている源次郎から譲り受けた家は、山の奥深くに建っている。この場所は一般の買い物代行サービス範囲外となっていた。

 その結果、冨岡の求める条件を満たすものが中々見当たらない。

 

「俺が住んでる所、めちゃくちゃ山奥ですよ? 買い物代行なんて誰もしてくれませんって」


 冨岡がそう言うと、美作は気怠い声で返答した。


「そんな誰もしないようなことを俺に頼もうってことか。まだ若いのに山奥に引きこもって何すんだい? 隠居生活万歳ヒャッホーってか?」

「そんなんじゃないですよ。ただ、ちょっと仕事を頑張ろうと思ったら、中々時間がなくて」

「仕事ねぇ、そんな山奥で皿でも焼いてんのかよ。まぁ、いいや。正式に仕事ってんなら受けるぜ。俺は何をどうすりゃいい?」


 文句を言うわりにはすんなりと受けてくれた美作に驚きながらも、冨岡は仕事の詳細を伝える。

 必要になる商品は事前にメールで送信して指定。美作は二日に一度、指定した食材や商品を購入して家まで届けること。届けた商品の内、要冷蔵なものは冷蔵庫にそれ以外は家の中に置いておくこと。

 届ける時間は夕方から夜の間。

 商品代と買い物代行の料金は家の中に置いておく。

 仕事の内容を伝えると美作は、不思議そうに問いかける。


「届けるのは夕方から夜。んで、商品受け渡しも支払いも顔を合わせねぇってことか? その時間、家にいなんだな。昼に作った皿を持って夜遊びでもしてんのか?」

「そもそも皿作ってませんし、夜遊びでもないですよ。ただいないってだけです」

「へぇ『いない』ねぇ。まぁ、いいや。それで? 今日から仕事ってことでいいのかい? いいなら今から買い物に行ってくるぜ」

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