第227話 一応の二乗

 言いながらレボルは冨岡に握手を求める。

 自分の思いを受け止め、熱量を重ねて返してくれるその握手を断るはずもなく、冨岡はレボルの手を強く握った。


「ぜひよろしくお願いします!」


 その後、冨岡はギルドの受付でレボルの斡旋手数料を払い、正式に冒険者レボルを雇用。

 レボルの話を聞き、護衛を請け負わなくても雇いたいと思っていた冨岡だったが、レボル自身が「護衛も兼ねたい」と言い出してくれた。

 彼自身が、大きな夢を抱いている冨岡を守りたい、と思ったらしい。

 護衛兼料理人としてレボルが加入。これは冨岡にとって大きい出来事である。

 自分よりも遥かに強いレボルがいることで安心して屋台を任せることができるのだ。その分、仕事の幅を広げていける。

 二つの仕事を兼ねてくれるというレボルに払う給料は、一ヶ月で金貨五枚。日本円に換算するとおよそ五十万円ほどだ。

 元々冒険者としてレボルが月に稼いでいたのは金貨三枚程度。それを考えればレボルとしても文句のつけようがない。むしろレボルは「もう少し低くてもいい」と言っていたのだが、冨岡は「それだけの仕事を期待している」と金貨五枚での雇用を決定した。

 レボルの初出勤は翌日の朝から。広場に集合するということで話は決まった。

 話を終えた冨岡は慌てて冒険者ギルドをあとにする。


「レボルさんとの話が盛り上がってちょっと遅くなっちゃったな。買い出しも行かないといけないし、晩御飯もまだだし急ぐか」


 帰りながら冨岡はそんなことを呟いていた。

 毎日ではないとはいえ、買い出しは労力がかかる。一度元の世界に戻って往復三時間以上の距離を運転しなければならない。その上、大きな荷物を乗せた台車を引いて教会まで歩く。

 その時間がなければ他のことをできるし、新しい仕事を考えられる。

 それについて冨岡は、一つ考えていることがあった。


「一応、聞いてみるか・・・・・・爺ちゃんの知り合いだし、まぁ怪しい人じゃないだろ。いや怪しい人ではあるけど」


 教会に戻った冨岡は、出迎えてくれたアメリアとフィーネにレボルを雇った話をしてから「買い出しに行ってくる」と言い、すぐに元の世界に向かった。

 先に寝るようにも伝えてあるので遅くなっても問題はない。

 路地裏の鏡から元の世界に戻ってきた冨岡は、急いである男に電話をかける。


「もしもし」


 冨岡が言うと電話の向こうから、たった今起きましたと言わんばかりの声とテンションで「ん? 誰だ?」と返ってきた。


「あ、冨岡です。源次郎の孫の・・・・・・覚えてますか?」

「ああ、なんだアンタか」

「なんだってなんですか。美作さんが名刺をくれたんじゃないですか」


 そう、電話の相手は美作。何でも屋を営んでいる源次郎の知り合いである。

 美作はあくびをしてから気怠そうに笑った。


「はは、そうだったな。それで何か用かい?」

「一応確認なんですけど、美作さんって何でも屋ですよね?」

「一応答えるけど、一応な」


 人の言葉を勝手に引用しないでくれ、と思いながらも冨岡は話を続ける。

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