第198話 逆転口論!

 時間は昨夜に戻る。

 美作との初対面後、冨岡は予定通り二十四時間営業のスーパーに向かった。

 いくら二十四時間営業とはいえ、夜中になれば売り切れている商品がある。その時間、不幸にもハンバーガーに必需であるレタスが売り切れていたのだ。

 少し離れた場所にも二十四時間営業のスーパーはあるが、美作との出会いによって想定したよりも遅くになってしまった冨岡は、レタスの代用として焼いた玉ねぎを入れることを決める。

 それによって今日販売したハンバーガーにレタスが入っているわけがない。

 まるで裁判中の弁護士の如く事実を突きつけた冨岡は、これ以上にないほど得意げな顔を浮かべている。

 すると男は、奥歯をギギギと噛み締めてから唾液を撒き散らして反論した。


「そ、そんなの関係ねぇだろ! いつ買ったのかなんてどうでもいい、虫が入ってたことが問題だろうが!」

「関係ありますよ。昨日買ったものであれば、作っている時に虫が混入したとは限りません。どうしてここで虫が混入したと言い切れるんですか?」


 冨岡の言葉は男どころか周囲の客にも聞こえる声量である。

 それを聞いた人は『確かに』と思うはずだ。

 買ったばかりのハンバーガーに虫が混入していたのであれば、店側の責任だと思って然るべきだが、一日置いた上で虫を発見したのであれば、どこで混入したのかわからない。この世界に『密閉』という商品梱包の概念がないのであれば余計にである。

 男は分かりやすく追い込まれたという表情で食い下がった。


「見てみろ、虫が入ってたのは事実だろうが! どこで入ったのかなんて関係ねぇ!」

「それじゃあ、買った食べ物を放置し、腐った時も店の責任になってしまいますよ。もちろん、この店で虫が混入していたのなら、誠心誠意お詫びします。ですが、あなたの態度は『この店を脅して金を取ってやろう』と考えているようにしか見えません。この売り上げは、多くのお客様が喜んでくれた分の代金なんです。そう簡単に渡すわけにはいきませんよ」


 自分でも少し強気すぎると思うような言葉だったが、この男が金目的である可能性が高い以上、引くわけにはいかない。

 それによって『この店は虫を混入させ、客に反論する』と思われる危険性があったとしてもだ。男がフィーネを脅した時点で、屈するわけにはいかないのである。

 すると男は服の袖を捲り上げ、丸太のように太い腕を見せた。


「ふざけやがって! 黙って金を出せばいいんだよ! それとも店ごと叩き潰してやろうか!」


 遂に言葉ではなく、暴力に出ようとする男。

 しかし、冨岡は引かない。カウンターの下でスタンガンを掴み、隠したまま言葉を返す。


「ちょっと話を聞いてください」

「ああ?」


 ここまで嘘を暴き、男の神経を逆撫でしていた冨岡には考えがあった。

 男の姿を見る限り、飲食店を営んでいる商売敵とは思えない。また、自分で商品を買っていない以上、客として来店した計画的なクレーマーとも違うだろう。もしも計画的なクレーマーであれば、その場で虫を混入させ騒ぎ立てるはずだ。その方が確実かつ早い。

 そこから導き出される男の正体は『誰かに雇われ、この店を潰そうとしている』何者か、である。

 そう考えた冨岡は小声で話を続けた。

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