第197話 レタスと玉ねぎ

 映像など見たことがない男は戸惑いから素直に冨岡の言葉を聞いていた。


「これは時間を遡ってこの場の様子を見ることができる魔法です」


 機械などの説明をしても伝わらない、と判断した冨岡は全てを『魔法』と表現する。


「開店してから今までの様子を全て確認しましょう。本当にお客様が購入されたものであれば、必ず映っているはずです」


 冨岡がそう言い放つと男は明らかに顔色を曇らせた。


「な、何言ってやがんだ。虫が入ってんのは本当だろうが! ほら!」

「ええ、そうですね。商品に虫が入っているのは確認できています。こちらとしても食品を扱う商売ですから、再びこのようなことが起きないように事実をしっかり突き詰めようかと」

「そんなこと、こっちには関係ねぇだろ。虫を食わされたから慰謝料を請求してるだけじゃねぇか」

「あれ、どうしたんですか? 確認されてはまずいことでもあるんですか?」


 そう言いながら冨岡は自分でも性格の悪い話し方をしているな、と思う。けれどフィーネやアメリアに恐怖を与えられたのだ。男に対する優しさなど持ち合わせているわけもない。

 男は一瞬黙ってから言葉を続ける。


「べ、別にまずいことなんかねぇけどよ! ってか、そうだ。知り合いに買ってもらったんだよ、これは。そうだ、そうだ。知り合いからもらったのを勘違いしてただけだ。でも、関係ねぇよな? この店の商品なのは間違いないんだからよ!」


 慌てて主張を変える男。初めて見た『映像』の効果を瞬時に判断できるあたり、頭の回転は早そうだ。

 しかし、冨岡は反撃の手を、いや口を緩めない。


「なるほど、なるほど。今日、知り合いから貰った、ということですね?」

「ああ、そうだ。誰が買おうとこの店の商品なのは間違いねぇだろ。この店が虫を混入させたのには変わりねぇ!」

「ええ、そうですね。今日、購入なさったんですよね? その知り合いの方は」

「あ?」

「食品ですし、購入してすぐなら店側の不手際かと思うのですが、買ってからしばらく放置していれば虫が入るのも不思議ではないかと。完全に密閉されているわけではないですからね」


 この世界に商品を完全に密閉する技術など存在しない。

 であれば、買ってきた食品を放置して虫が混入することなど珍しくないだろう。そう考えた冨岡は次の議題を『いつ買ったか』に移した。

 当然、男の方も時間が経った食品に、後から虫が付着することを責められないと考えたのか、肯定する。


「当たり前だろ。今日買ったものだよ! だからさっさと」


 男がそう言いかけた瞬間、冨岡は口角を上げた。


「あれ? おかしいですね」

「ああ?」

「このハンバーガーを見る限り、入っている野菜はトマトとレタスです」

「それがどうしたってんだ!」

「ウチのハンバーガーはトマトとレタスを入れているのですが、昨日の仕入れ時にレタスが売り切れていてですね。今日は代わりに焼いた玉ねぎを挟んでいるんですよ。レタスが挟んであるハンバーガーを今日、購入できるわけがない」

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