第185話 せっかくなので
冨岡が問いかけると、美作は視線を斜め右上に少しだけ動かす。
その雰囲気から、美作が何かを隠していると直感した冨岡は疑問をそのまま言葉にした。
「あれ・・・・・・俺、祖父が亡くなった話しましたっけ? 祖父が山を持っていた、とは言いましたけど・・・・・今アンタが手を合わせてたのって俺の祖父にでしょ?」
そう問いかけられた美作は長髪をかき乱すように頭を掻く。
「俺が手を? 何で?」
質問に対して質問で返す美作に不信感を蘇らせつつ、冨岡は推測を進めた。
「もしかして美作さんは・・・・・・爺ちゃんの知り合い?」
「どうしてそう思ったんだ?」
またしても質問で返す美作。いつまでも手の内を見せない彼の姿勢に、冨岡は唇を尖らせる。
「どうしてって、手を合わせてたからですよ。こんな時間まで居るし・・・・・・手を合わせてるアンタから悪意は感じられなかった。多分、空き巣とかじゃあない」
「悪意か。人は悪意を抱く動物だが、悪意を隠すのも上手い動物だぜ。疑ってるくらいがちょうどいい」
「アンタのことは、そりゃあ疑ってますよ。けど、あの雰囲気が嘘だとは思わないんです。おかしいですか?」
純粋すぎる冨岡の言葉に美作は思わず吹き出す。
「ははっ、いや、おかしくないさ。やっぱり源次郎さんの孫だな」
「やっぱり知ってるじゃないですか」
そう指摘すると美作は嬉しそうな笑みを浮かべた。
「ああ、黙ってて悪かったな。昔、源次郎さんに助けられたことがあるんだ。少し前に亡くなったと聞き、手だけでも合わせたいと思って寄らせてもらった」
「じゃあ、木坂建設からの仕事は嘘ってことですか?」
「いや、それは本当だ。ちなみに俺が昼寝のしすぎでこの時間になってしまったのも本当だ」
「それについては本当だと思ってますよ」
冨岡が目を細めて言うと美作はさらに口角を上げる。
「源次郎さんのことを知ってるってこと以外は全て本当だ。何でも屋もしてるし、土の採取もしてる。ただ手を合わせに来たってだけさ」
「こんな時間までずっと手を合わせてたんですか。あれから三時間弱経過してますけど」
「そんなわけないだろ。ちゃんと仕事してたさ。簡易的な試験ならここでできるからな」
そこで冨岡は、美作の足元に銀色のケースが置いてあるのを視認した。おそらく試験器具のようなものだろう。
服の袖口にもまだ湿った土が付着しているので、仕事していたのは本当らしい。
「そうですか」
突然、祖父の知り合いと言われても存外話は広がらないのだな、と冨岡は停止する。
このままおやすみなさいと別れるのも違和感があるし、祖父との話を深掘りするのもまだ美作のことを知らないので憚られる。
困ってしまった冨岡は咄嗟に「それじゃあ」と話始めた。
「せっかくなので、上がっていきますか。もし時間があればですけど、仏壇に挨拶でも」
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