第172話 緑の奇跡
そこまで話を聞いた冨岡は『どうしてフィーネが能力に目覚める前から、教会側が気づいていたのか』という疑問を抱く。
聖女の存在を認めることが『白の創世』にとって不都合であったことは理解できる。別の信仰対象が現れることは不利益でしかないだろうし、世界を平和にしているのは『白の創世』であるするならば聖女の存在は邪魔だ。
だとしても、まだ能力が発現していないフィーネが『聖女の奇跡』を受け継いでいると判断したのは何故だろう。
「隠していた理由はわかったのですが、その・・・・・・フィーネちゃんが『聖女の奇跡』を受け継いでいることに『白の創世』が気づいたのはどうしてでしょう?」
疑問をそのまま言葉にする冨岡。
するとアメリアは、その質問を待っていたと言わんばかりに話し始める。
「私も同じことをルネッサに問いかけたんです。するとルネッサは当時のことをこう語っていました」
今から四年前の話。
それは嵐の夜だった。その嵐は三日三晩と続いており、川の氾濫や家屋の破損によって人々は避難を考え始める。
だが、嵐の中では非難することもままならず、このままでは洪水に流されるのも時間の問題かに思えた。
その当時、教会は今ほどボロボロになってはいないものの、強い雨風により所々破損し始めていたらしい。それによって生まれた隙間から風が侵入してくるのを防ぐため、ルネッサは木材での補修を試みる。
外套に身を包み、外で作業をしていた彼女は教会の前に置かれた小さな籠を発見した。
買い物に使うような小さな籠である。
何が置かれているのか、と気になり中を覗くと綺麗な白い布に包まれた赤子がスヤスヤと眠っていた。
ルネッサは慌てて赤子を抱き上げる。するとその瞬間、赤子は緑色の光に包まれた。
赤子の光は一気に広がると天まで昇り、灰色の空を吹き飛ばしたのである。
わかりやすく言えば、嵐を消し去った。
そのまま赤子は教会で保護されることになったのだが、興味を持ったルネッサが緑色の光と奇跡について調べると『聖女伝説』の中に、同じような描写があったとことに気づく。
聖女は乾いた土地に水をもたらし、嵐吹き荒れる土地には晴天をもたらす、という話だ。
人の心や傷を癒すだけではなく、天候さえも操るという。どれも緑色の光を用いて。
「もちろん、ルネッサは『白の創世』上層部にそのことを報告しました。すると、上層部はそんな事実などなかったことにせよ、と命じたそうです。四年前の嵐も『白の創世』の祈祷によるものに改竄され周知されました」
アメリアの話を聞いた冨岡は念のため確認する。
「じゃあ、その赤子が?」
「ええ、フィーネです」
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