第162話 モヤモヤ

 アメリアに問いかけらた冨岡は腹を抱えるようにして答えた。


「流石はキュルケース家の従者だな、と思っただけです。アメリアさんの性格もしっかりと加味して、最適な判断してくれていますね」


 キュルケース家の心遣いと有能さを実感する冨岡。選択肢が多いわけではないが、やはり手を組むのならばキュルケース家以外にないだろう。公爵という地位だけはない魅力がそこにはある。

 貴族に対して良い感情を持っていないアメリアも、少しだけ心を許したような表情を浮かべていた。


「貴族様が私のために、私の話を聞きながら心遣いを・・・・・・ありがたい話ですね」


 結果としてアメリアやフィーネが無事であったこと。実は隠れて護衛を続けてくれていたこと。それをわざわざ明かさなかったこと。

 そんな心遣いに感動しながら、冨岡はふと話を振り返る。


「そういえばよく気づいたね、フィーネちゃん」

「ん?」

「護衛の二人の存在に、だよ。そりゃ、屋台の方が見えるようにしていたとしても、隠れてはいたんでしょ? 話を聞く限り、アメリアさんやフィーネちゃんに気づかれないようにしていたはず。どうやって見つけたの?」


 問いかけながら、冨岡は晩御飯の用意に戻った。話はあくまでも作業をしながら、である。

 フィーネの方も冨岡が用意した計算問題に向き合いながら答える。


「うーんとね、昨日からなんかモヤモヤが見えるようになって」

「モヤモヤ?」

「うん。人それぞれモヤモヤがあって、見えなくても見えるの」


 何を言っているのか、全くわからない。冨岡は玉ねぎを切りながら首を傾げた。


「見えなくても見える? 謎解き?」


 すると、話を聞いていたアメリアが鼻の奥で小さく笑いながら会話に入る。


「ふふっ、どうやらフィーネが入っているのは魔力を感じる、という話のようです」

「魔力・・・・・・ですか」

「ええ、人がそれぞれ持っている魔力を感じ取れるようなんです。あ、トミオカさんの疑問もわかりますよ。ある程度、魔法に慣れた人であれば感じ取れるって話ですよね」


 いや、わからない。慣れた人ならわかるものなの? それじゃあかくれんぼ出来ないじゃん。

 あまりにも異世界あるあるすぎる話に、冨岡の知能は小学生の頃に戻っていた。

 それでも言葉を返さなくては、と頷く。


「あ、ああ、そうですよね」


 そうなのか? それが普通なら何でこの話をしているの?

 心の中で自分にツッコミを入れる。

 何もわかっていない冨岡を理解したかのように、アメリアは補足を続けた。


「それでも、それができるのは魔法の訓練を積んだ冒険者や傭兵くらいです。大人でも出来ない人も多い中、フィーネにそれが出来るなんて驚きですよね」

「そ、そうですよね。そうです、そうです。そこに驚いたんですよ」

「ふふっ、私も昨夜驚きました。実は昨夜、フィーネから『モヤモヤが見えて落ち着かない』と相談されていて、魔力のことだと理解し驚いていたところだったんです」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る