第154話 見抜きましたぞ

「それじゃあ、俺はこれで」


 冨岡が立ち去ろうと背を向けたところで、ローズが身を乗り出す。


「トミー!」

「ん? どうかしましたか、ローズおじょ・・・・・・じゃなくて、ローズ」

「また来るわよね? お父様からの依頼を達成したからって、もう来ないなんてことないわよね?」


 彼女の話し方自体はこれまで通りどこか上からのように感じられた。しかし、言葉からは不安が滲んでおり、両親との間にあった壁を乗り越えたとしても冨岡の存在を必要としているのがわかる。

 そんな彼女の心情をおぼろげながらに理解している冨岡は優しく微笑んで答えた。


「もちろんですよ。ホース公爵様に用があるのもですが、ローズがしっかり食べているのか確認しにきますよ。あ、そうだ。ローズの部屋にリバーシを置いたままなのでダルクさんと練習して俺を負かしてくださいよ」


 冨岡の言葉を聞いたローズは安心したように息を漏らす。


「そう、それなら今日のところは帰ることを認めるわ。早く来ないと知らないわよ、私がどれだけ優秀か思い知ることになるわ」

「ははっ、楽しみにしていますよ」


 最後にそう言い残し、冨岡は公爵家をあとにした。

 移動販売『ピース』が屋台を出している広場への帰り道、車の中でダルクは嬉々として冨岡に話しかける。


「いやぁ、流石でしたな。まさかローズお嬢様の心をあれほど掴まれるとは」

「何度も言いますけど、俺は俺のしたいようにしただけですよ。状況は違いますけど、ローズの気持ちは何となくわかりましたから」

「ほう、トミオカ様にもそのような経験が?」

「ええ。というか、子どもの頃は誰も寂しいと思った経験があるはずですよ。大人になるにつれて忘れていくものかもしれませんが・・・・・・俺より先にローズと相対した講師たちが気付けなかったのはローズを『公爵令嬢』として扱っていたからでしょう。一人の女の子として接すれば、気づくはずです。あれ、そう考えると俺が無礼だから気づけたみたいですね」


 異世界人である冨岡にとって貴族という存在はかなり遠いもの。どれだけ偉いのかも、どのように接するべきなのかもわからない。だからこそ、敬語を使いながらもある程度自然体でいられた。

 その自然な接し方がローズの心に響いたのだろう。

 

「無礼なんてことはありませんでしたぞ。確かに、貴族様相手という気負いはかんじられませんでしたが。ほうほう、なるほど。このダルク見抜きましたぞ。トミオカ様は貴族制のない国から渡って来られましたな?」


 本当、この人はすぐに『見抜いた』って言うな。

 そんなことを思いながら冨岡は「そんなところです」と返す。

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