第130話 約束の範囲

 ハンバーガーを作ったのが冨岡だと知った途端、怒り出したローズ。その理由もおぼろげながらに気づいている冨岡だったが、彼女の口から答えを聞くことに意味がある。

 それまで炭酸飲料の衝撃的な美味しさに浸っていたローズは、突然電源を落としたかのように停止した。


「・・・・・・」


 またしても沈黙。

 こうなることを想定して冨岡はローズとの約束を交わしていたのである。


「ローズお嬢様、先ほど約束しましたよね。俺が用意したものを楽しんでいる時は話してくれるって」

「むぅ・・・・・・も、もう飲み干しちゃったもの。今は約束の範囲内じゃないわ」


 そう言ってから一気に炭酸飲料を飲み干すローズ。

 詭弁だ、と冨岡は苦笑した。

 ここまでの会話でローズの知能が高いことは理解していたが、こうなるとそれが厄介だ。

 約束を『冨岡が用意したものを楽しんだ分、質問に答える』としておけば良かったのだろう。軽く後悔しながらも冨岡は話を続けた。


「今飲み干したじゃないですか。うーん、困ったお嬢様ですね」

「あら、そんなに困るなら荷物をまとめてこの屋敷から出て・・・・・・荷物を全て置いてこの屋敷からでていけばいいじゃない」

「何で俺の荷物だけは手に入れようとしてるんですか」


 冨岡が言い返すとローズは「ちっ」と可愛らしい舌打ちを鳴らす。

 そんなローズの舌打ちはダルクにとって指摘しなければならないらしく、彼はわざとらしく咳ばらいをした。

 ローズは細い指で口元を押さえてから言葉を続ける。


「もちろん約束は守るわよ。あなたが私に何かを提供して、私が楽しんでいる間は話をする。飲み物で私を釣ろうとしたのは失策じゃなくて?」


 お嬢様というよりも悪役令嬢っぽい話し方だな、と思いながら冨岡は口角を上げた。


「確かに失策だったかもしれませんね。ローズお嬢様の頭がいいことはわかりました。俺の策略では篭絡できそうにもありませんね」

「あら、物分かりはいいみたいね。わかってるじゃない。そうよ、私は頭がいいの。だから私のことは気にしなくていいわ。礼儀も食事も必要ならこなすの。使い分けているだけよ」

「使い分けられるなら、ホース様が心配しなくてもいいようにすればいいじゃないですか」


 冨岡がそう言うとローズは再び黙り込む。

 こんなに沈黙されては三点リーダーだらけになってしまう、と冨岡は間を埋めるように話を続けた。


「そうですね、今は何も提供してませんから答える義務はありませんよね」

「ええ、そうよ」

「じゃあ、これもローズお嬢様の自由なのですが・・・・・・頭のいいお嬢様に勝負を挑ませていただけませんか?」


 突然の提案に目を丸くするローズ。

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