第110話 キュルケース家執事

「あれ? もしかして違いましたか? てっきり借金の取り立てかと」


 肩透かしを食らった冨岡がアメリアと男の顔を交互に眺めると、申し訳なさそうな表情でアメリアが説明する。


「トミオカさん。この方はそうではなくて、昨日いらっしゃった・・・・・・」


 そこまでアメリアが言うと男は自分の衣服を正しながら口を開いた。


「昨日は主人がお世話になりました。私、キュルケース家執事のダルクと申します。主人からハンバーガーを買ってくるよう命じられましたので、こちらの女性にお話ししていたところです」


 ダルクと名乗る男はどうやら昨夜、最後に現れた貴族らしき客の執事らしい。

 その話を聞いた冨岡は軽い疑問を抱き首を傾げた。


「あれ? じゃあ、普通のお客さんってことですよね。すみません、アメリアさんが困っているように見えたので・・・・・・何か問題でもあったんですか?」


 冨岡がアメリアに問いかけると、彼女は胸の前で両手を合わせながら口を開く。


「それが・・・・・・」

「ここにある商品を全て買い取らせていただきたい、とお願いしていたところだったのです」


 少し困っているアメリアの様子を察したのか、ダルクが言葉を引き継いだ。


「そうなんです。突然、そう言われたので驚いてしまって・・・・・・その大きな声で『待ってください』と」


 アメリアがそう捕捉した。どうやら困っているというよりも驚きのあまりに声を上げてしまったらしい。

 一安心した冨岡は胸を撫で下ろしながら、もう一度ダルクの話を聞く。


「そうだったんですか。って、えーっと? ハンバーガーを全て買いたいってどう言うことですか?」

「言葉通りでございます。こちらの商品を全て買わせていただきたい、と主人が申しております」


 再びダルクの話を聞いた冨岡は胸の中に浮かび上がる疑問をそのまま言葉にした。


「数を確認せずに全てを買い上げるということは、とても気に入っていただけたんでしょうね」

「ええ、それはもう」

「けど、それだけじゃない。ハンバーガーが本当に欲しいなら、必要な分だけ購入するはず。数も確認せずに全て買う理由はハンバーガー以外にある。違いますか?」


 冨岡の問いかけに対してダルクは優しい笑みを浮かべる。


「なるほど、我が主人が気に入るのも納得です。ええ、その通りですよ。私に命じられたのは『この店の主人をキュルケース家にお招きすること』でした。店に商品が残っている状態ではお招きすることもできません。もちろん、あなた方が売上を逃すこともしたくはない。そこで全て買い上げようと至ったわけです」

「配慮はありがたいですけど、せっかく来てくれたお客さんにはハンバーガーを味わっていただきたいので、全て買い上げるのはやめてください」


 そう冨岡が言うとダルクは残念そうに言葉を返す。


「それでは、我が家には来ていただけない、と?」

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