第109話 跳ねる油と心
アメリア、フィーネと合流し朝食を済ませると冨岡は昨日と同じように屋台を引く。
「さぁ、今日も移動販売『ピース』を始めましょう」
冨岡の掛け声と共に屋台は動き出し、市場を通って広場に向かった。初日の物珍しさは無くなったがハンバーガーの味を知っている客は多い。もう一度食べたいと、屋台についてきた。
その人数を見れば今日の売上はある程度確保できるとわかる。
「でも、この屋台だけじゃあこれ以上収入が増えることはない。やっぱり、実店舗を構えて色んな商品を売っていかないとダメか」
額から流れる汗を拭いながら冨岡は呟く。
せっかく掴んだ屋台の客を手放すのは惜しい。移動販売を受け継ぐ従業員を雇いたいと願っても、元手が必要だ。
手っ取り早く元手を得るためには日本から異世界への転売が最適だろう。一旦、そのために転売をするのも悪くはない。だが、それでは先細りだ。現時点で百億円あるとしても景気良く使っていけばいずれはなくなる。
一度だけと決めてこの世界で一気に稼ぐだけにすれば、問題ないだろうができる限りしっかりと稼げるシステムの中でお金を使いたい。
そんなことを考えているうちに市場へ辿り着き、移動販売『ピース』開店の時間になった。
冨岡たちは昨日の経験をもとにスムーズにハンバーガーを売っていく。
「ここに並んでくださーい」
フィーネが行列を捌き、アメリアが接客。冨岡はハンバーガー作りに集中する。
パンも材料も充分に用意しているため昨日のような問題は起きない。
販売の問題がないとしても、昨日のように難癖をつけられることがないか、冨岡は周囲にも気を配る。
何かあった時のために厨房内の手の届くところにはスタンガンを置いていた。
「何も起きないといいけど」
客が途切れることなく販売を続け、昼が過ぎた頃。焼いていたハンバーグの脂が跳ね、冨岡の頬に決死の体当たりをかます。
「あつっ!」
思わず冨岡が頬を拭い視線を散らした瞬間、外からアメリアの声が聞こえた。
「ちょっと待ってください!」
その声には驚きと困惑が混ざっており、緊急事態であることはすぐにわかる。
冨岡は慌ててスタンガンを手に取り、カウンターから顔を出した。
「アメリアさん、どうしたんですか!」
すると冨岡の目には、清潔感のある三十代ほどの男がアメリアに近づこうとし拒絶されている姿が映った。
「まさか、借金の取り立てに?」
そう考え冨岡は急いで屋台から飛び出す。
「アメリアさんから離れろ! 借金ならすぐに返す! 乱暴なことをするな!」
スタンガンを構えながら冨岡が叫ぶと、その男どころかアメリアまでポカンとした表情を浮かべた。
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